研究実績の概要 |
糖尿病とアルツハイマー病の間には相互的な病態修飾作用があることを我々は糖尿病合併アルツハイマー病マウスにおいて見出していたが、その機序の詳細はインスリン・シグナルなどが示唆されるもののいまだ未解明である。本研究では糖尿病とアルツハイマー病の合併モデルマウスにおける遺伝子発現変化の病態への因果関係を明らかにすることを目的とする。我々はβアミロイドに対して生体は恒常性維持機構を持っているが、糖尿病によってその恒常性維持機構が破綻するのではないかと考えており、その分子機序を明らかにするところが本研究の学術的な特色である。そしてその鍵となる分子はアルツハイマー病治療薬開発の基盤となることが予想され、成功した場合に非常に卓越した成果が期待できる。糖尿病合併アルツハイマー病モデル動物の解析により、アルツハイマー病に糖尿病が合併することで初めて発現が増加する遺伝子群を見出し、その遺伝子の中には神経保護に関与すると想定される遺伝子が含まれており興味深い結果となった。その遺伝子の発現解析およびノックアウトマウスの作成を行い、2遺伝子のゲノム編集マウスの作成に成功した。1遺伝子に関してはノックアウトにより胎生致死であることが判明したため、コンディショナルノックアウトの作成を新たに開始した。もう一つの遺伝子に関しては遺伝子レベルでのノックアウトは確認できたが、蛋白レベルでもノックアウトできているかを確認した後に、APPマウスと交配する。さらに糖尿病合併ADモデルにて、糖尿病とADが合併することによって初めて発現増加する遺伝子をバイオインフォマティクス的アプローチであらたに解析すると、過去にアルツハイマー病研究(Zhang et al., Cell 2013)で報告のあったある遺伝子モデュールとかなり有意に相関することが判明した。またそのような遺伝子の発現を制御しうる転写因子を同定した。
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