研究課題
平成27年度は、平成28年度に行う予定の人実験の一部を前倒して実施した。この理由は、2年間の萌芽研究で成果を出すために加えて、動物実験の評価の指標として、中高年を対象とした生理生化学実験を優先させる必要があったためである。まず、40-60歳代看護士 16名と70-90歳代老人18名を対象に、乳酸菌(ガセリ菌)あるいはプラセボを12週間投与して効果を判定した。血漿総タンパク質とヘモグロビン量がガセリ菌群で有意に増加した。足のむくみ、下肢筋肉量の増加と握力の有意な増加、末梢血単球数の減少、γグロブリンの低下、膝関節の痛み(JKOM)とコラーゲンII分解・合成比の有意な低下、副交感神経の有意な活動亢進と睡眠の改善が認められた。これらの新しい効果については3件の特許として申請準備中である。さらに、他の乳酸菌(シロタ株)についても医学科学生を対象にした試験を実施し、4年次に実施される全国統一進級試験(CBT試験)受験者を対象にした被験者試験で、整腸作用、唾液コルチゾル産生の低下(Benef Microbes. 2016)、ストレスによる身体症状と風邪症状の軽減(Neurogastroenterol Motil 2016)と末梢血遺伝子発現変化と乳酸菌投与による腸内細菌の多様性の維持(Applied and Environmental Microbiology 2016)を報告した。動物実験に関しては、ラットの乳酸菌投与による迷走神経の活動亢進、胸髄側角、延髄孤束核の活動亢進シグナルをとられ、さらに、ストレス時の視床下部室傍核のCRHニューロンからのCRH産生を抑制することを報告した(Neurogastroenterol Motil 2016)。また、2015年に乳酸菌の抗ストレス作用について2件の特許出願を行った(特願2015-185031、特願2015-185032)。
1: 当初の計画以上に進展している
平成27年度は、当初動物実験を中心に行う計画であった。この動物実験を行うにあたり、乳酸菌の効果を判定する生理学的・生化学的指標を増やす必要があるため、ヒト試験を前倒しして行った。このヒト試験を行い、これまでの研究成果の積み重ねはあるとしても、当初の予想をはるかに超える成果が得られた。具体的にはガセリ菌の中高年の病院職員を対象とした12週間の服用試験において、精神的健康の改善に加え、栄養状態の改善、筋力の改善、炎症の抑制、代謝改善を新たに発見した。これらの新しい効用は3件の特許出願を行う予定である。また、医学科4年次の全国統一進級試験受験者を対象とした乳酸菌のストレス緩和作用の試験を行い、その成果については、平成27年度に3つの英文原著論文として誌上発表した(Benef Microbes 2016, Neurogastroenterol Motil 2016, Applied and Environmental Microbiology 2016)。さらに、動物実験も着実に行い成果をあげた。ラットを用いた乳酸菌の生体内シグナルの解析では、胃内投与による迷走神経求心枝の活動亢進と孤束核の活性化、ならびに、ストレスによる視床下部のCRHニューロンの抑制を確認して英文原著としてNeurogastroenterol Motil 2016に誌上発表した。この成果は、脳腸軸を介して乳酸菌シグナルが中枢神経に伝えられることを初めて示した論文となる。乳酸菌の抗ストレス作用については2件の特許出願を行った。このように、平成27年度は予想をはるかに超える成果をあげることが出来た。
28年度の計画研究計画に基づきヒト試験を中心に研究を進める。具体的には、徳島大学臨床試験審査委員会の承認を得た試験実施計画書にもとづき、40-60歳の民間病院従業員と市民ボランテイア50名を対象に、ガセリ菌の効果を検証する。1) 背景調査ならびに心理状態の評価:GHQ, Zung-SDS, HADS, STAI, EAT-26食生活態度, PSQI 睡眠習慣, HPI 生活習慣,JKOM日本版変形性膝関節症評価表の質問票により、対象者の背景調査ならびに心理状態の評価をおこなう。2) 遺伝子発現の解析:リアルタイムPCR法にて既に同定しているストレス応答遺伝子ならびにストレス応答microRNAの発現解析を行う。血清タンパク質ならびに唾液中のタンパク質の解析は、ELISA法を用いて行う。3) DNAメチル化解析:採取した全血よりDNAを精製後、MassARRAY systemもしくは、Illumina Human Methylation450BeadChip Kitを用いてメチル化網羅的解析を行う。4) 体内代謝動態への影響:血中アルブミン、総タンパク質、骨代謝マーカー、老化マーカー、一般生化学検査、血算検査、HbA1cより、栄養状態への影響を評価する。5) 睡眠状態の評価:スリープウェル社のスリープスコープを用いて、睡眠状態の客観的計測を行う。6) 自律神経活動の評価:パルスアナライザーを用いて、自律神経活動比の計測を行う。質問票から得られた身体症状の変化と遺伝子発現・タンパク質発現、代謝状態の変化を群間差、また、被験物飲用前後の比較検討をし、乳酸菌飲料の身体への効果について検討する。
すべて 2016
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件)
Neurogastroenterol Motil
巻: 28 ページ: 1027-1036
10.1111/nmo.12804
Benef Microbes
巻: 7 ページ: 153-156
10.3920/BM2015.0100
Applied and Environmental Microbiology
巻: in press ページ: in press