研究課題
近年、宿主の健康や身体疾患に影響を及ぼす栄養成分のうち、食物繊維およびその代謝産物である短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)に注目が集まっているが、精神健康や精神疾患における短鎖脂肪酸の役割は明らかではない。本研究では、腸内細菌による情動・ストレス反応の変容をもたらす原因物質として短鎖脂肪酸に着目し、宿主への影響およびそのメカニズムを明らかにすることを目的とした。はじめに、大腸の腸管管腔内で短鎖脂肪酸濃度を調整できる飼料の作成および改良を行った。研究当初、自作飼料を無菌マウスに投与したところ発育障害を認めた。腸内細菌の有無が、障害の発生に関与している可能性を検証するため、SPFマウスに自作飼料を投与した。SPFマウスは順調に発育したが、胃腸障害を認めたため、飼料を改良した。飼料の改良により、マウスの発育および胃腸機能に支障なく研究を進めることが可能となった。また、改良飼料でも、腸管管腔内の特定の短鎖脂肪酸濃度が上昇することを確認した。次に、SPFマウスを対象に行動特性(多動性、不安関連行動)の解析を行ったが、現時点では、飼料の種類によって行動特性に有意な差を認めていない。今後、腸管管腔内の各種短鎖脂肪酸が、脳内のモノアミン関連遺伝子発現および神経伝達物質濃度に及ぼす影響を検証する予定である。本研究では、自作飼料により短鎖脂肪酸濃度を腸管管腔内で上昇させることに成功している。今後、腸内細菌が宿主の生理機能に作用するメカニズムを解明するためにも、今回作成した飼料は有用である。
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