研究課題
本年度は当初研究計画に従い、内分泌系への分化誘導能を有することを確認済みの化合物(LY411575)に加え、同様の機能を有すると報告されているDibenzazepine(DBZ)についても分化誘導能の検証を進めた。その結果、以下の知見を得た。1) 消化管内視鏡により採取されるヒト生検組織由来の腸上皮オルガノイドの樹立を進めた。本年度までに計23症例より36系統のヒト腸上オルガノイドを樹立し、以後の検討に用いることが可能な状況となった。2) ヒト小腸由来オルガノイドにおいて、LY411575またはDBZを添加することにより分泌系細胞に共通する分化誘導転写因子であるATOH1の発現が誘導されることを確認した。一方、分泌系細胞への分化を抑制する分化抑制因子であるHES1の発現が抑制されることも同時に確認した。同誘導の際に適切な添加濃度・添加時間の検討を進め、最適な条件の設定を終了した。これによりヒト小腸オルガノイドを用いた「汎分泌型」オルガノイドへの分化誘導モデルを確立した。3)分泌刺激因子の候補因子であるアセチルコリン(Ach)及びプロスタグランジンE2(PGE2)について、ヒト小腸由来オルガノイドに添加した際の応答を解析した。その結果、アセチルコリンは一過性・限定的な水・電解質の分泌を促す一方、プロスタグランジンE2は持続的かつ強力な水・電解質の分泌刺激として機能することが明らかとなった。プロスタグランジンE2による同応答は炎症性サイトカイン等による影響を受けず、消化管ホルモンの一つである血管作動性ペプチド(Vasoactive intestinal peptide, VIP)と同等の作用を示した。
2: おおむね順調に進展している
当初計画に則り、ヒト生検組織由来の腸上皮オルガノイドについて、多系統に渡るライブラリの構築を終了している。また、「汎分泌型」オルガノイドへの分化誘導モデルの構築についても条件の至適化を実施し、分泌型腸上皮細胞への効率的な分化誘導を確認し、条件検討を終了している。更に分泌刺激因子の一つであるプロスタグランジンE2や消化管ホルモンの一つである血管作動性ペプチド(VIP)がヒト腸上皮オルガノイドに与える作用についても、ヒト腸上皮に直接作用することにより「強力な水・電解質の分泌促進作用」を発揮するという新たな知見を得ることに成功している。従って本研究は概ね順調に進展しているものと考えている。
今後は樹立済みのヒト腸上皮オルガノイドと「汎分泌型」オルガノイドへの分化誘導モデルを用いることにより、個別消化管ホルモン産生細胞への分化誘導機構の解明を進める方針である。この際、内分泌細胞への分化過程を追跡可能な遺伝子組換えマウスにより得られる情報も参照しつつ、分化誘導の最適化を進める方針としたい。L細胞やD細胞への分化に特化した個別分化オルガノドの作製に成功した際は、研究計画に則り、同オルガノイドが分泌する消化管ホルモンの質・量に関する解析を加えた後、生体表現型を解析するため適切なマウスモデルへの投与・移植等を視野に研究を推進する方針である。
試薬等が計画当初より廉価で購入可能であったため。
検討する数・種類を拡大して解析を行うため、試薬を増量して購入する予定である。
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