8週齢のTK-NOGマウスにガンシクロビルを腹腔内投与し、肝障害を誘導した後に脾臓より経門脈的に初代培養ヒト肝細胞を投与することでヒト肝細胞キメラマウスの作成に成功した。この方法で作成したヒト肝細胞キメラマウスからはヒト肝細胞由来の腫瘍化を認めなかった。同様に、TK-NOGマウスに特殊な条件下で培養したヒト肝細胞を投与すると、ヒト肝細胞キメラマウスが作成できたが、一部に腫瘍化を認めた。免疫染色を行うと腫瘍はHLA陽性であり、移植したヒト肝細胞由来であることが解明された。ヒト肝細胞癌に肉眼像、組織像共に酷似しており、この腫瘍部と培養前のヒト細胞、投与直前の初代培養ヒト肝細胞のエクソームシーケンスを行い比較検討した。その結果、ヒト腫瘍部の変異としてはナンセンス変異、スプライシング変異、フレームシフト変異は認めず、サイレント変異、ミスセンス変異が多数を占めた。中でもヒト腫瘍部のNRasにミスセンス変異(Q61L)を認めた。このミスセンス変異は皮膚がんや大腸がんで多く報告されている最も高頻度に生じるNRas活性化型変異である。培養前のヒト細胞には認めず、投与直前の初代培養ヒト肝細胞において認められていた。そのため腫瘍化の原因として、投与した初代培養ヒト肝細胞のNRas変異が原因の1つではないかと考えられた。今後NRas変異をハイドロダイナミックインジェクションなどの人工的な遺伝子導入法を用いると同様の腫瘍形成が起きるのかを検証し、NRas変異によるヒト肝細胞がんモデルとしての応用につなげたい。
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