研究課題/領域番号 |
15K15294
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
桑野 由紀 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部, 助教 (00563454)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 選択的スプライシング / 中途ストップコドン |
研究実績の概要 |
約23,000の限られた遺伝子領域から10万種以上のタンパク質を作り出し、生物の多様性を生み出すRNAプロセシング機構は、特に高等生物に発達している。申請者は、大腸がんで高発現するスプライシング調節因子SR(セリン・アルギニンリッチ)スプライシング調節タンパク質(SRSF3)は、酸化ストレス下でHIPK2のスプライシングパターンの変化させ、p53の活性化を抑制することを見出した(Oncogene 2014)。さらに、大腸がん細胞は、長い3’UTRをもつ BCL2 mRNAスプライスバリアントを選択的に誘導して細胞死を抑制する機構が存在することを見出し(Cell Death & Differ. 2014)、RNAプロセシング異常と発がん及び癌悪性化機構について報告している。 RNAプロセシングの過程で生成される中途ストップコドン(premature termination condon: PTC)を含むPTCバリアントmRNAは通常、正規タンパク質に翻訳されず“ジャンクRNA”としてRNA品質管理機構(nonsense-mediated RNA decay: NMD)により分解される。しかしながら、SRSF遺伝子から生成されるPTCバリアントmRNAは、①大腸癌細胞において酸化ストレスにより選択的に誘導され、②核内に留まりNMDによる分解を受けず蓄積し、③細胞の異常増殖及び細胞老化の阻害を介し細胞周期を攪乱することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は、大腸がん細胞においてSRSF-PTCに内在された新しい細胞周期調節メカニズムの解明を目的に、ビオチンラベル化RNAを用いたRNA-protein immunoprecipitationによる抗老化関連PTCバリアントの作用因子の同定(biotin pulldown法及びLS-MS法)を行い、これまでに10種類のRNA結合蛋白質を同定することが出来た。半定量的RCR法およびウエスタンブロット法により、標的遺伝子領域のバリデーションも検討した。このうち、3種類のRNA結合タンパク質について細胞内機能の検討を進めており、それぞれ、① PTCの核内局在及びNMD回避を介してPTC mRNAの安定化に重要であること、② 選択的スプライシングに関与しPTCを含むエクソンのインクルージョン、スキッピングを調節すること、③ 核内スペックルへのPTC mRNAの貯留に関与する可能性があること、を見出すことが出来た。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は、PTCを含み、かつNMDによる分解を回避するSRSF-PTC mRNAもつ分子メカニズムを明らかにするため、既に構築した安定過剰発現細胞及びノックアウト系の消化器癌細胞株を用いて、細胞増殖能、軟寒天培地でのコロニー形成能の検討、invasion assayを行い腫瘍の悪性度を評価する。さらに、当初の予定通りヒト組織検体を用いたRNA-FISHで大腸がん組織におけるPTCの局在を検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたが、この理由は、リアルタイムPCR補修費として使用していたが、3月になってから事務部よりこの経費で支払えない旨通達があり、急きょ別経費に振り替えたため。3月だったため研究目的の別物品購入にも切り替えられず、次年度繰越とした。
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次年度使用額の使用計画 |
物品費、及び投稿ジャーナルのオープンアクセス費用として次年度に計上する。実際に昨年度投稿したオープンアクセスジャーナルの掲載料が予定より高額だったため、消耗品費を一部振り替えているので、次年度経費として産出する。物品費としては、昨年度PTCに結合する相互作用因子を予定より多数である10種類同定できたため、3種類についてピックアップしバリデーション実験を行っているが、さらに2種類を追加し、細胞内機能解析のための抗体、siRNA等の購入費に計上する。
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