研究課題
腸内細菌は21世紀に発見された新臓器であり、腸内細菌の構成バランスが崩れた不安定化が、近年、我が国を含む先進諸国で増え続ける慢性免疫疾患(炎症性腸疾患、リウマチ疾患、喘息、アレルギー、肥満、糖尿病、自閉症)の原因と考えられている。しかし、これらの疾患の制圧のために、さらなるブレイクスルーが必要である。本研究課題において、学童期の免疫機構成立期前後に、候補悪玉菌死菌をワクチンとして投与し、人工的に免疫記憶を獲得する斬新な方法論を着想し、慢性免疫難病制圧の挑戦に挑む。本発想は、善玉菌を非自己、善玉菌を自己と正確に認識するシステムを免疫機構成立期に完成させるための悪玉菌死菌をワクチンとして利用した介入であり、能動免疫によって悪玉菌の定着を生涯にわたって拒絶するシステムであり、安価で慢性免疫難病疾患の発症を抑制する画期的なストラテジーを樹立する挑戦である。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度では、これまで本研究室で精力的に研究を行ってきた善玉菌プロバイオティクスの代表として、Clostridium butyricum (Cell Host Microbe 2013, Immunity 2014)をフォーカスし検討を行った。すなわち、Clostridium butyricum死菌成分を細胞壁分画、細胞質分画に分離し、細胞壁分画に急性DSS腸炎を抑制する活性を有することを確認した。この際、死菌、細胞壁分画はDSS投与2週間前から経口投与とした。一方、DSS投与3ヶ月前より2週間経口投与したところ腸炎抑制活性を見出すことはできなかった。本実験は投与時期を変え(3ヶ月前、1ヶ月前より2週間)3回行なったがいずれも腸炎抑制活性を見出すことはできなかった。Clostridium butyricum死菌の腸炎抑制活性には経口免疫寛容 (oral tolerance)メカニズムという側面が存在するという仮説に基づいたものであるが、今後、アジュバントなどの使用などの改良が課題となった。また、もう一つ独創的なモデルを確立した。すなわち、人工的にdysbiosis環境を作製することによって全身脱毛という表現系を持つマウスの確立である。具体的にはバンコマイシン投与とビオチン欠乏食によりマウスはほとんどの系統でdysbiosisを呈し、腸管外で表現系(全身脱毛)を有するモデルが最適であることに着目した。バンコマイシン投与+ビオチン欠乏食マウスはLactobacilus murinus菌単独で60%という極めて極端なdysbiosisを誘導することを見出した。本モデルはClostridium butyricum(善玉菌)を投与すると脱毛を抑制することも確認している。以上、平成27年度は残り2年のための基盤となる極めてユニークなモデルを確立した。
我々が見出した善玉菌プロバイオティクスの代表Clostridium butyricumの腸炎抑制活性に経口免疫寛容が関与することを実証するために、平成28年度以降も投与時期、投与量、アジュバント使用などの改良を試みる。さらに、投与方法を経口免疫寛容の関与から離れ、皮下投与+/-アジュバント投与を試みたい。また、細胞壁成分のさらなる細分化分画の作製も同時に進める予定である。さらに、各分画の免疫抑制メカニズムをin vitroにて検証する。具体的には、制御性T細胞誘導能、マクロファージ/樹状細胞からのIL-10、TGF-b産生能を検討する。さらに、全身脱毛を発症するバンコマイシン投与+ビオチン欠乏食マウスで著明に増加するLactobacilus murinusについても死菌化し経口投与、皮下投与を行い、脱毛抑制効果の有無を検証する。すなわち、善玉菌、悪玉菌の代表を死菌化ワクチンとして用いる対照的なモデルを検証することで、残りの2年、腸内細菌菌体成分のワクチン応用という挑戦的な課題に取り組む予定である。
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