研究課題
新たな薬剤の開発において肝毒性および肝細胞機能の評価は極めて重要であり、生体内の肝小葉環境を模した評価系が求められている。しかしながら、従来の培養系では肝小葉特異的な門脈・肝動脈枝から中心静脈へと向かう肝類洞環境の再現は困難であった。この解決法として、本研究では肝小葉特有の酸素濃度勾配を再現しうるマイクロ流体デバイスの開発と機能評価を目的とした。研究初年度となる平成27年度は、自ら設計したマイクロ流体デバイスの流路内における酸素濃度勾配をシミュレーションした後、酸素応答性色素のポルフィリン膜上にデバイスを設置して、酸素濃度勾配の蛍光可視化を行った。その後、このデバイス内にマウス由来の初代培養肝細胞を播種し、カルセインAMによって生細胞の細胞質を染色するとともに、ICG含有培地(1mg/ml)を灌流して肝細胞の取り込みを観察した。また、デバイス内に酸素濃度勾配を形成するため、脱酸素剤として亜硫酸塩を用いた際の培地中の酸素濃度を計測し、生体内近似的な酸素濃度における肝細胞の生存を評価した。その結果、デバイス内において約80%の肝細胞の生着と、ICG取り込みを確認した。亜硫酸塩濃度別の培地中酸素濃度を計測した結果、門脈および中心静脈周辺域の酸素分圧(門脈周辺域:70mmHg、中心静脈周辺域:40mmHg)をもたらす亜硫酸塩濃度がそれぞれ0.06%、0.08%であることを決定した。この濃度における肝細胞の生存率を測定した結果、controlと比較して24時間後で60%、48時間後では40%を示したが、両濃度間において同程度の生存率を確認した。
2: おおむね順調に進展している
酸素濃度勾配を有する肝小葉環境模擬デバイスを開発するなど、計画通りに順調に進んでいる。
本研究の最終年度となる平成28年度には、亜硫酸塩の肝細胞傷害性を避けるべく、人工酸素運搬体や酸素ガスの使用など、酸素濃度勾配をもたらす新たな方法を模索する。また、ブドウ糖濃度勾配の影響についても併せて検討を行う。
研究初年度においては、分離した肝細胞を用いての培養条件や使用する亜硫酸塩濃度の検討に多くの時間を割いたため、マウスの使用(購入)数自体は当初予定よりも限られた。また、酸素濃度勾配がもたらす糖代謝関連遺伝子発現の変化や低酸素条件下で発現が誘導されるHIF-1α/βの免疫染色文字年度に持ち越されたことから、当初計上した試薬類等の研究経費を全額使用するには至らなかった。
本研究の最終年度となる平成28年度には初代培養肝細胞を用いた実験が本格化し、多数のマウスが必要となるとともに、遺伝子発現解析や免疫染色実験にも多くの試薬類の購入が予定されている。
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すべて 雑誌論文 (9件) (うち査読あり 9件、 オープンアクセス 3件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち招待講演 3件) 備考 (2件)
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