代謝・免疫などが関与する多くの消化器系疾患研究において,マウスは最も頻用されるモデル動物である。しかし,マウスの胆汁酸組成はヒトと大きく異なり,胆汁酸による細胞傷害性や,核内および膜受容体を介した胆汁酸による脂質代謝制御には大きな種差が存在する。根本的な違いは,マウスの肝は,ヒトでは最終産物であるケノデオキシコール酸(CDCA)の6β位を水酸化し,CDCAを細胞障害性のない親水性のミュリコール酸(MCA)に変換する酵素を有することである。従来そのCDCA 6β水酸化酵素の実体は不明であったが,我々は平成28年度までにチトクロームP450の1つであるCyp2c70がCDCA 6β水酸化酵素そのものであることを明らかにした。 最終年度は,CRISPR-Cas9によるゲノム編集技術を使用し,Cyp2c70のノックアウトマウス作製に着手した。まずCas9発現ノックアウトベクターを作製し,ノックアウトベクターの受精卵への導入を行った。産仔の尻尾数ミリを採取し,DNAのダイレクトシークエンスによって導入変異の有無を解析した。最終的に目的の変異が導入されているマウスをファウンダー(F0)マウスとした。次にF0マウスを野生型マウスと自然交配させ,ヘテロ(F1)マウスの取得を目指すと共に,雌雄のF0マウスを自然交配させることにより,簡易的なホモのノックアウトマウスを作製した。このホモマウスの胆汁を採取し,胆汁酸分析を行った結果,MCAを認めない代わりに多くのCDCAを認め,Cyp2c70がCDCAの6β水酸化酵素であることが確認できた。
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