研究課題
様々な医薬品の開発等による治療法の発展にも関わらず、血管老化・動脈硬化を基盤とした脳心血管死は高齢者の死亡原因の大半を占めており、平均寿命と健康寿命の乖離に大きく関与している。健康長寿の実現のためには、病的老化の進展した集団をいち早く抽出し、老化を標的とした先制医療を実践する必要がある。しかしながら、これまで病的老化の進展を評価・予測する方法の開発はなされていない。我々は以前より、様々な加齢促進ストレスによって組織における老化細胞の蓄積が加速され、臓器・組織機能不全(老化)を促進することで加齢関連疾患発症・進展に関与していることを示してきた。そこで本研究では、ヒト血管内皮細胞老化モデルや長寿・老化マウスモデルを用いて加齢関連因子を抽出し、さらに臨床的検証を加えることで、新たな老化マーカー・治療標的を同定することを目指す。そこで、本研究では研究期間内に以下について明らかにする。(1) ヒト血管内皮細胞老化モデルを用いて、血管老化に伴って分泌が変化する因子を抽出する。(2) 長寿・老化マウスモデルにおいて寿命と関連がある可能性のある分泌因子を抽出する。(3) 佐渡研究の血液サンプルにおいて、(1)(2)で抽出された分泌因子を検証し、加齢に伴って変化する血液中の因子を明らかにする。(4) 同様に佐渡研究の血液サンプルにおいて、(1)(2)で抽出された分泌因子を検証し、加齢関連疾患の有病率と相関する因子や、健康長寿と相関の高い血液中の因子を明らかにする。(5) 上記で検証された候補因子について遺伝子改変マウスモデルを作製し、老化や加齢関連疾患、寿命との因果関係について検証する。
2: おおむね順調に進展している
これまでの我々の研究から、老化した細胞が様々な炎症惹起分子を分泌し、生活習慣病をはじめとした加齢関連疾患の病態基盤となっている慢性炎症に関与していることが示されている。近年このような現象は、Senescence-associated Secretory Phenotype (SASP)として報告されるようになっており、生活習慣病のほか、がん発症にも関わっていることが示唆されている。一方、血管内皮細胞は、最大の内分泌組織であることも知られており、血管から分泌される分子が生活習慣病に対する血中マーカーとなること、さらに、様々な加齢関連疾患の病態生理にも影響することが示唆されている。これまでの我々の研究から、血管老化には、細胞分裂に伴うテロメアの短縮のほか、生活習慣病に伴うメタボリックストレスが関与していることがわかっている。そこでこれらの老化シグナルによるストレスを総合的に評価するため、分裂に伴う老化のほか、DNA損傷反応を直接活性化するストレスや遺伝子導入による老化を誘導した血管内皮細胞の遺伝子発現データをバイオインフォマティクスの手法を用いて解析した。パブリックデータベースに登録されている老化を誘導した血管内皮細胞の遺伝子発現データについてもメタ解析を行った。様々な老化誘導の系で共通して変化する遺伝子のうち、特に分泌因子を抽出した。実際このようなストラテジーによって、既にいくつかの候補因子の同定に成功した。その一つであるGPNMBは、血管内皮細胞の老化に伴い発現の増加が認められること、ノックダウンにより血管内皮細胞のviabilityが低下することなどから、老化抑制因子として働く可能性が示唆されている。以上の結果より、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
今年度は老化関連マーカーとしてのGPNMBの有用性の検証と加齢関連疾患におけるその役割について検討する。具体的には、ヒト疾患の血液サンプルでその発現を検討するとともに、GPNMB欠失マウスや過剰発現マウスにおいて、血管機能(拡張反応や血管新生能)を調べることによって、加齢関連疾患における病態生理学的意義について解明していく。
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