近年、腫瘍内に存在するMyeloid derived suppressor cells(MDSC)と呼ばれる未分化な細胞集団が免疫制御を介して癌の進展に寄与していることが明らかとなっている。その制御分子の一つであるMyeloid related protein(MRP)8/14はこのMyeloid系細胞に多く存在する蛋白であるが、腫瘍内で発現が高いのみならず、心血管イベントのバイオマーカーあるいは肥満患者での脂肪組織でその発現が亢進することが知られている。そこで、本研究ではメタボリック症候群・動脈硬化などの慢性炎症におけるMyeloid由来細胞の関与をマウス肥満モデル・動脈硬化モデルで検討し、さらにMRP8/14を標的とした治療として治療ワクチンを構築してその治療効果を検証することで、慢性炎症病態におけるMyeloid由来細胞を介した免疫応答から病態治療の可能性を探る。 糖尿病でのMDSCの役割・機能評価をするため、MRP8とMRP14に対するペプチドワクチンを複数作成し、野生型マウスに2回投与した後で抗体価の上昇からそれぞれの候補ワクチンを1種類ずつ選択した。高脂肪食負荷をかけた野生型マウスにMRP8およびMRP14ワクチンを投与し糖負荷試験を行ったが、どちらのワクチンも有意な血糖降下作用はなかった。また、インスリン負荷試験でも有意な差は認められず、ワクチンによるフェノタイプの差は認められなかった。また、メラノーマの担癌モデルにもワクチン投与を行ったが、癌の増殖に差は認められずMDSCの機能阻害による抗腫瘍効果は認められなかった。一方、MRP14ワクチンはCD36シグナルの抑制を介して抗血小板作用を発揮することを見出し、血管障害後の血管閉塞を有意に抑制することも明らかとなった。
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