研究課題
細気管支前駆細胞(bronchiolar progenitor、以下「BP細胞」)は、細気管支上皮細胞への多分化能と自己複製能を有し、細気管支上皮の恒常性を維持している。われわれは最近、マウスでの予備実験の結果から、「分化した細気管支上皮細胞から、in vitroでBP細胞への脱分化を誘導する」ことを着想し、誘導性細気管支前駆細胞(induced BP、以下「iBP細胞」)の創製を提案するに至った。本研究ではまず、マウスiBP細胞への脱分化誘導法を確立し、その知見を応用することにより、ヒトiBP細胞の樹立を目指す。本研究の成果は、気道上皮細胞に特異的な脱分化機構の解明につながるだけでなく、再生医療に不可欠な生体材料を提供することで、革新的な医療技術の開発にも寄与する。そこで研究初年度に当たる平成27年度は、マウスiBP細胞の形質特性を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
誘導性細気管支前駆細胞(induced BP、以下「iBP細胞」)の創製を目指して、研究初年度に当たる平成27年度は、マウスiBP細胞の形質特性を明らかにした。まず、20 μgのシンデカン組換え蛋白質を経静脈的にマウスに投与することにより、iBP細胞の誘導をマウス体内で試みた。その結果、[Lin陰性、Sca-1陽性、低い自己蛍光]を特徴とする細気管支前駆細胞の数は、28万個から44万個へと増加することがわかった。さらに、別のマーカーである[proSP-C陽性、CCSP陽性]を指標に免疫染色を行ったところ、シンデカン組換え蛋白質を投与したマウスでは、[proSP-C陽性、CCSP陽性]の細胞が細気管支で増加していることが確認された。そこで、この誘導された細気管支前駆細胞の形質特性として、抗炎症効果を評価した。ナフタレン肺炎症モデルおよびブレオマイシン肺炎症モデルにおいて、誘導された細気管支前駆細胞の抗炎症効果が明らかになった。
平成27年度の研究成果により、マウスiBP細胞の形質特性が明らかになった。平成28年度は、当初の計画通り、細気管支上皮細胞からマウスiBP細胞への誘導条件の最適化を進めていく。脱分化誘導に用いるシンデカンには、哺乳類で共通して4つのサブファミリーがある。サブファミリーによって、組織分布、ヘパラン硫酸鎖の数、コンドロイチン硫酸鎖の有無は異なるものの、生理活性の相違は十分わかっていない。そこで本研究では、4種類すべてのシンデカンの細胞外ドメインを、マウス骨髄腫細胞で作製した組換え蛋白質を用意し、それぞれ添加する濃度を変えながら実験を繰り返す。これによって、iBP細胞への脱分化誘導の効率が最大となるように、3次元培養法を最適化する。
予算額の99.66%を費やして、ほぼ計画通りに研究を遂行した。しかしながら、効率的に研究を遂行したため残金が発生した。
試行回数を増やすことによって、次年度使用額を使用する予定である。これによって、実験結果の精度をより高められることが期待される。
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