研究課題
細気管支前駆細胞(bronchiolar progenitor、以下「BP細胞」)は、細気管支上皮細胞への多分化能と自己複製能を有し、細気管支上皮の恒常性を維持している。われわれは最近、マウスでの予備実験の結果から、「分化した細気管支上皮細胞から、in vitroでBP細胞への脱分化を誘導する」ことを着想し、誘導性細気管支前駆細胞(induced BP、以下「iBP細胞」)の創製を提案するに至った。本研究ではまず、マウスiBP細胞への脱分化誘導法を確立し、その知見を応用することにより、ヒトiBP細胞の樹立を目指す。本研究の成果は、気道上皮細胞に特異的な脱分化機構の解明につながるだけでなく、再生医療に不可欠な生体材料を提供することで、革新的な医療技術の開発にも寄与する。研究初年度に当たる平成27年度は、iBP細胞の誘導をマウス体内で試み、さらに、誘導された細気管支前駆細胞の形質特性として、抗炎症効果を明らかにした。そこで研究二年度に当たる平成28年度は、in vitro培養実験を繰り返し、マウスiBP細胞の形質特性の解析を進めた。その結果、細気管支上皮細胞からiBP細胞への脱分化を誘導するのに最適な条件を明らかにすることができた。具体的には、[Lin陰性、Sca-1陽性、高い自己蛍光]を指標に、マウス肺から細気管支上皮細胞を分離し、3次元in vitro培養を行った。さらに、この培養条件に、シンデカン4の組換え蛋白質を添加することによって、細気管支上皮細胞からiBP細胞への脱分化誘導は促進されることも明らかになった。
2: おおむね順調に進展している
誘導性細気管支前駆細胞(induced BP、以下「iBP細胞」)の創製を目指して、研究二年度に当たる平成28年度は、in vitro培養実験を繰り返し、マウスiBP細胞の形質特性をさらに解析した。具体的には、[Lin陰性、Sca-1陽性、高い自己蛍光]を指標に、マウス肺から細気管支上皮細胞を分離し、3次元in vitro培養を行った。その結果、「1300個の細気管支上皮細胞を100 μlの50%マトリゲルに懸濁し、24ウエルのトランズウェルプレートのインサート内で、10万個のMLg肺線維芽細胞と共培養する」という培養条件が、細気管支上皮細胞からiBP細胞への脱分化を誘導するのに最適であることがわかった。さらに、この培養条件に、シンデカン1、2、3、4と4つのサブファミリーを有するシンデカンのうち、シンデカン4の組換え蛋白質を5 μg/mlから10 μg/mlの間の濃度で添加することによって、細気管支上皮細胞からiBP細胞への脱分化誘導は促進されることも明らかになった。
平成28年度の研究成果により、iBP細胞への脱分化誘導の効率が最大となるように、3次元培養法の最適化を行った。平成29年度は、当初の計画通り、マウスiBP細胞への脱分化誘導に関わる分子機構を明らかにしていく。具体的には、予備研究の結果から「シンデカン4による脱分化誘導に、酸化ストレス応答経路が関わっていること」が示唆されたことから、酸化ストレス応答としてKeap1-Nrf2システムを取り上げて研究を進める。Nrf2(NF-E2 related factor 2)は、塩基性領域のロイシンジッパー構造を有する転写因子である。細胞が活性酸素種に曝露すると、Nrf2はKeap1との結合によるプロテオソーム分解から逃れて、酸化ストレス防御遺伝子の転写を活性化することが知られている。そこで、このKeap1-Nrf2システムが、シンデカン4にどのように制御されているのかを明らかにし、iBP細胞への脱分化誘導に関わる分子機構を明らかにする。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (11件) (うち国際共著 2件、 査読あり 11件、 オープンアクセス 11件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件) 図書 (2件) 備考 (1件)
Respirol Case Rep
巻: 5 ページ: e00235
10.1002/rcr2.235. eCollection 2017.
Allergol Int
巻: 66 ページ: 89-96
10.1016/j.alit.2016.05.012.
Clin Rheumatol
巻: 36 ページ: 239-240.
10.1007/s10067-016-3443-2.
Respir Investig
巻: 54 ページ: 494-499
10.1016/j.resinv.2016.04.006.
Respir Res
巻: 17 ページ: 121
10.1186/s12931-016-0438-0
EMBO Mol Med
巻: 8 ページ: 422-436
10.15252/emmm.201506154.
Mol Ther
巻: 24 ページ: 41-52
10.1038/mt.2015.153.
Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol
巻: 310 ページ: L1028-L1041
10.1152/ajplung.00351.2015.
巻: 17 ページ: 7
10.1186/s12931-016-0322-y.
巻: 54 ページ: :211-215
10.1016/j.resinv.2015.12.005.
BMC Pulm Med
巻: 16 ページ: 30
10.1186/s12890-016-0193-5.
http://www.med.niigata-u.ac.jp/resp/welcome.html