研究課題/領域番号 |
15K15321
|
研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
中田 光 新潟大学, 医歯学総合病院, 教授 (80207802)
|
研究分担者 |
田澤 立之 新潟大学, 医歯学総合病院, 准教授 (70301041)
北村 信隆 新潟大学, 医歯学総合病院, 特任教授 (90224972)
井上 義一 独立行政法人国立病院機構(近畿中央胸部疾患センター臨床研究センター), 臨床研究センター, 臨床研究センター長 (90240895)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 肺胞蛋白症 / 分子細胞呼吸器学 |
研究実績の概要 |
我々は、自己免疫性肺胞蛋白症に対する全肺洗浄に際し、排液中のIgGなど4つの蛋白の濃度を、半透膜を介した物質の拡散原理に従う時間を変数として構築した数学モデルを用いて、理論値を実測値とシミュレーションさせることで、血中から肺への各蛋白の移行速度定数を求めることに成功した(赤坂ら、Am J Physiol Lung Cell Mol Physiol. 2015)。病因である自己抗体除去の理論式こそ、全肺洗浄の有効性を解く鍵となることが期待されるが、同抗体は肺内に移行するや、一部は肺が産生するGM-CSFと複合体を形成するため、上記の数学モデルは使えない。洗浄液中の自己抗体量の推定には、肺が産生するGM-CSF量、血中より移行する自己抗体量、自己抗体1分子が結合するGM-CSF分子数(患者毎に異なる)からなる要素を加えた数学モデルの構築が必要である。本研究では、この数学モデルを実測値にシミュレーションしつつ最適化する。さらに、このモデルを用いて全肺洗浄後の患者肺の自己抗体量を経時的に予測し、予後を予測するシミュレーションを行う。この数学モデルの確立には、複合体になっている①自己抗体濃度を測定する技術と②GM-CSFを測定する技術が必要であるが、①はすでに開発が終了し、②はほぼ技術が確立した。今後は、これらの技術を用いて、肺洗浄液中の自己抗体濃度、GM-CSF濃度を測定し、シミュレーションを実行していきたい。本研究は、呼吸器疾患の治療機序や予後予測を数学的に解析する初めての試みである。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
全肺洗浄排液の複合体を形成していないGM-CSF自己抗体濃度は、全て測定済みである。問題は、複合体を形成している自己抗体濃度であるが、洗浄排液と過剰量のビオチン化GM-CSFと液相で反応させアビジンプレートで補足して定量する方法を開発し測定ができるようになった。この方法では、ビオチン化GM-CSFに結合した自己抗体をアルカリフォスファターゼ標識抗Fcγ抗体で検出させ、アルカリフォスファターゼ活性を化学発光法で定量する。また、洗浄排液中のGM-CSF濃度の測定のために、以下の方法を開発した。全肺洗浄排液中のGM-CSFは、Freeの形で存在しているものはなく、ほとんどが自己抗体と結合して、複合体の形で存在しているため、測定には、複合体を解離させる必要がある。1.5%SDS溶液中で、解離させたGM-CSFを還元アルキル化して二次構造、3次構造を破壊した上で、この変性GM-CSF濃度を定量する。このため、マウスに免疫して作製したモノクローナル抗体を用いたELISA法を開発した。すなわち、1次の変性GM-CSF特異的モノクローナル抗体を96穴プレートに固相化し、変性洗浄液サンプルを反応させた後、検出抗体としてビオチン化抗GM-CSFポリクローナル抗体を用い、ストレプトアビジンアルカリフォスファターゼを反応させて、化学発光により活性を測定するという方法を行った。現在この測定法の改良と再現性を調べており、確立されれば、全検体を測定したい。
|
今後の研究の推進方策 |
2017年8月までに変性GM-CSF再現性よく定量できる技術を完成させたい。そのための課題は、洗浄液中のGM-CSFを変性させて測定するステップが多いので、ステップの簡略化を図る。全肺洗浄後も血中の自己抗体濃度は一定とすると、単位時間あたり、一定濃度の自己抗体が肺に流入してくる。全肺洗浄により肺胞内の自己抗体濃度は、第一回目の排液中に比べて1000分の1程度に低下するが、Ⅱ型上皮細胞によるGM-CSF産生は低下しないため、未熟肺胞マクロファージの成熟が進み、血中より流入してくる自己抗体を吸収分解する。一方では、吸収されずに残った自己抗体は、GM-CSFと複合体を形成する。肺が産生するGM-CSF量や、GM-CSF1分子に結合する自己抗体分子数などの初期条件により、患者の予後が変わるのではないかと考えている。今年度後半には、対象とする15例の全肺洗浄前のパラメーターのデータベースを活用し、経過に関するデータを追加する。患者予後のシミュレーション結果に実際の経過がどれくらい近いかを適合度検定する予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
27年度に洗浄排液中のGM-CSF自己抗体/内在性GM-CSFの複合体濃度を測定するELISAを確立するため努力したが、 複合体を変性させる条件検討に時間がかかり、シミュレーションに使う数式に入力するためのデータの取得に時間がかかった。 内在性GM-CSFを変性させる方法が確立したため、29年度中にデータを取得し、29年度夏以降、シミュレーションを実施したい。
|
次年度使用額の使用計画 |
28年度に条件検討し、方法を確立できたため、29年度夏までに300検体の洗浄排液中のGM-CSF抗体と内在性GM-CSFを測定する予定である。そのためには、複合体変性のための還元アルキル化キットの購入やモノクローナル抗体の精製、市販のポリクローナル抗体の購入が必要である。そこに繰り越した予算を投入する。29年度予算でシミュレーションを行い、学会発表し、論文化する予定である。
|