研究課題
KLHL蛋白は、Cullin3(Cul3)との結合に関与するBTBドメインをN末に持ち、C末にはKelchリピートと呼ばれるドメインがヘリコプターのプロペラのような構造を形成し、この部分がKLHL3-Cullin3複合体がユビキチンE3リガーゼとしてユビキチン化する基質を捕捉する。我々はKLHL3がWNKキナーゼを基質としている事、その分解の障害がWNK-OSR1/SPAKキナーゼシグナル系を恒常的に活性化し、腎臓遠位尿細管ではSlc12a3(Na-Cl共輸送体:NCC)がリン酸化され活性化し、NaCl再吸収が亢進して塩分感受性高血圧症を引き起こすことを発見した (Cell Reports 2013, Hum Mol Genet 2014)。また、KLHL3ときわめて相同生の高いKLHL2も同様にWNKキナーゼのE3リガーゼをCul3とともに形成できることも明らかにし、KLHL2/3が細胞によって役割を分担して、その細胞におけるWNKキナーゼ(1から4まで)を制御している可能性を報告した(BBRC 2013)。また、未発表ながらKLHL2/3自身の分解はp62という分子との会合によって選択的オートファジーと呼ばれる機構にて分解されることも明らかになってきた。これらの結果を受けて、まずWNKシグナル阻害薬創出のため、KLHL2/3による過剰発現がWNKシグナル系を実際に抑制できるかをまず培養細胞系にて確認する。動物を使った検討では、KLHL2/3のトランスジェニックマウスを作成し、実際に生体内でKLHL2/3の発現増加がWNKシグナルを阻害できるかを検討する。薬剤のスクリーニングは、KLHL2/3の発現増強薬およびp62とKLHL2/3の結合阻害薬のスクリーニング系の立ち上げて行う。
2: おおむね順調に進展している
KLHL2/3過剰発現によるWNKシグナル系制御の試みとして、培養細胞系においては、すでにKLHL2/3の強制発現によって、同時に発現させたWNKキナーゼの蛋白減少作用は確認できた。よって、次の段階として、内因性のWNKシグナル系に対しての抑制効果を確認したところ、強制発現系のWNKに対する作用よりはその効果が軽度であった。そのため、KLHL2/3とともにE3リガーゼを構成するCullin3も同時に強制発現させたが、効果の増強は得られなかった。これらの結果を受けて、一過性のKLHL2/3の強制発現では蛋白としての半減期の比較的長いWNKキナーゼの長期間の抑制は困難と考えられ、KLHL2/3蛋白をテトラサイクリン感受性のプロモーターで安定発言できる細胞株を樹立し、現在この細胞によって、KLHL2/3発現増強による、内因性WNKシグナル抑制の効果を確認中である。一方、KLHL2/3トランスジェニックマウス作製と、KLHL2/3プロモーター解析のために、KLHL2/3遺伝子の単離が必要であるため、適当なBACクローンの選定と、そこからの全エクソンを含んだ遺伝子領域と、プロモーター領域の単離を、それぞれ、その後のトランスジーン作成と、リポーターコンストラクト作成を視野にいいて、行っている。
当初想定していなかった点としては、内因性のWNKキナーゼに対しては、同時に強制発現させたWNKに対するよりKLHL2/3蛋白の分解作用が弱いことであった。これは、単にKLHL2/3の発現が一過性である事だけに起因するのみならず、一度すでに細胞内で合成されたWNKキナーゼが、あとから強制発現したKLHL2/3リガーゼと細胞内で結合し分解系に導かれにくい細胞なの別なコンパートメントに移動している可能性も考えられた。この場合、当初の目的を達成するために、種々の方法も考案したが、結局はKLHL2/3により分解しずらいWNKに対してはその自然の分解をまち、新規に合成される部分に関しては強制発現した場合と同様にKLHL2/3の発現で分解できると考え、KLHL2/3の発現を安定的に長期で行った際のWNK蛋白の挙動を検証する事で解決可能と判断している。実際、上記の方策により、予想される予備実験のデータが得られており、このデータの確認を得てのち、すでに並行しておこなっている、KLHL2/3トランスジェニックマウスの作製のためにコンストラクトの準備と、KLHL2/3プロモーターの解析とそれを用いた薬剤スクリーニング系の確立を加速し、研究を進めていく予定である。
すべて 2015 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 6件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件) 備考 (1件)
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