研究課題/領域番号 |
15K15328
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
古市 賢吾 金沢大学, 大学病院, 准教授 (50432125)
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研究分担者 |
和田 隆志 金沢大学, 医学系, 教授 (40334784)
長船 健二 京都大学, iPS細胞研究所, 教授 (80502947)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 疾患特異的iPS細胞 / PAX2 / 腎コロボーマ症候群 / 再生 / 修復 |
研究実績の概要 |
本研究では,稀少疾患であるPAX2遺伝子変異を伴った腎コロボーマ症候群の症例より疾患特異iPS細胞を作成し,本症候群の病態解明,治療法開発および薬剤スクリーニングなどに資する評価システムを構築するものである. PAX2遺伝子は,腎発生に必須な遺伝子であり,本症候群では腎の形成異常を認め,末期腎不全に至る症例も少なく無い.また,我々は,PAX2遺伝子が胎児期だけでなく,生後も腎障害時に再活性化し,腎障害の進展機序に関与している可能性を示す動物実験の結果を得ている. 我々が診断したPAX2遺伝子変異を伴った3例の腎コロボーマ症候群症例の血球細胞からiPS細胞を作製した。続いて、症例毎に確立されたiPS細胞20株について適正株の選別作業を進めた。さらに、症例毎に選別された腎コロボーマ症候群患者由来の至適iPS細胞株およびコントロールの健常日本人由来iPS細胞から中間中胚葉および尿細管などの腎系譜細胞への誘導を試みている。現段階で、疾患特異的iPS細胞では、尿細管への誘導効率が低い傾向が認められる。この尿細管への誘導効率が低い事が、PAX2遺伝子変異に伴うものかも含め、刺激条件の変更も行いながら検討を進めている。 今後、発現解析を網羅的に進めるために、PAX2遺伝子の転写活性に関して、データベース上の検索も進めている。いくつかの標的候補分子が確認されており、今後実際の網羅的解析結果との照合でより可能性の高い分子の選択が期待される。 本研究により,これまで評価が難しかった稀少疾患の胎生期における病態形成機序解明に迫る解析が可能となる.同時に,ストレス下でのPAX2遺伝子再活性化の事実を基に,慢性腎臓病の進展機序解明および,創薬研究に供することが可能な細胞スクリーニングの評価系を確立し,革新的治療法の開発を推進する.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腎コロボーマ症候群症例の末梢血細胞を用いて3例のiPS細胞を樹立し、成体腎構成細胞のほとんどを派生させる胎生組織である中間中胚葉および尿細管などの腎系譜細胞への誘導を行った。 これまで、各症例および正常者毎にiPS細胞20株を確立した。これら細胞に対して、適正株の選別作業を進めた。さらに、症例毎に選別された腎コロボーマ症候群患者由来の至適iPS細胞株およびコントロールの健常日本人由来iPS細胞から中間中胚葉および尿細管などの腎系譜細胞への誘導を試みた。現段階で、疾患特異的iPS細胞では、尿細管への誘導効率が低い傾向が認められた。最近報告されているいくつかの誘導に関しても検討を重ねており、この尿細管への誘導効率が低い事が、PAX2遺伝子変異に伴うものかも含め、刺激条件の変更も行いながら検討を進めている。 加えて、PAX2遺伝子の転写活性に関して、データベース上の検索も開始した。PAX2結合に関するモチーフ解析やChip-Seqのデータベースなどの検討を進めている。いくつかの標的候補分子が確認されており、今後実際の網羅的解析結果との照合でより可能性の高い分子の選択が期待される。 加えて、急性腎障害マウスモデルや尿細管上皮細胞における虚血ストレスなどの条件による検体収集を進めた。これら検体は、今後候補分子が絞られた際の検証検体として用いる。 本研究は,評価が難しい稀少疾患の胎生期における病態形成機序を解明すると同時に,慢性腎臓病の進展機序解明および,創薬研究に供することが可能な細胞スクリーニングの評価系を確立し,革新的治療法の開発を推進するものである. 以上、すべてのプロジェクトとも予定通りの進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は最終年度である。現在進行中のiPS細胞の尿細管上皮細胞への分化の研究を進めると共に、PAX2発現に関連した発現遺伝子の網羅的解析を進める。異なるPAX2変異を有する3例の腎コロボーマ症候群由来のiPS細胞による比較検討から、それぞれの変異によるPAX2遺伝子作用についても考察出来と考える。これら一連の結果は、臨床所見の異なるそれぞれの症例の発生段階における現象の再現であり、現状では、本研究のみで施行、確認できる重要な研究結果となるとこが期待される。 くわえて、この発生段階の再現で得られる知見は、腎修復における知見と重なる事が推測されている。すでに準備が進んでいるマウス急性腎障害モデルの検体及び培養尿細管上皮細胞におけるPAX2再活性化のサンプルを用いて、その標的遺伝子の発現程度を検証する。こられら、得られた標的遺伝子およびその蛋白は、急性腎障害の障害あるいは修復のターゲット分子あるいはマーカー分子となる可能性があり、本研究以降の動物実験による介入研究や臨床検体での検証が期待される。 さらに、データベース上の検索も有用かつ重要な課題であり、平行して進める。実際のiPS細胞による網羅的発現解析結果は、データベース上の他の発現解析結果およびモチーフ解析による結語部位予測などにより、PAX2に制御されている遺伝子の候補を効率的に絞り込むことが可能となる。この様な、データベース上の解析も同時並行して進め、より効率的かつ有効な解析結果の解釈に結びつける予定である。 これら一連の研究を効率的に進め,稀少疾患の胎生期における病態形成機序解明に迫る。さらに、解析および慢性腎臓病の進展・修復機序解明および,バイオマーカーの検索に結びつく結果を示せるように検討をすすめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の効率化をはかったため、使用金額が若干使用金額を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は最終年度であり、引き続き効率的な研究を進めつつ、未使用残金も有効に使用する。
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