研究課題/領域番号 |
15K15338
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡辺 宏久 名古屋大学, 脳とこころの研究センター, 特任教授 (10378177)
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研究分担者 |
Bagarinao E. 名古屋大学, 脳とこころの研究センター, 特任准教授 (00443218)
祖父江 元 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任教授 (20148315)
伊藤 瑞規 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (50437042)
前澤 聡 名古屋大学, 脳とこころの研究センター, 特任講師 (90566960)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | MRI / 脳波 / リアルタイム / 機能的MRI / ネットワーク / 高次脳機能 / パーキンソン病 / 脳腫瘍 |
研究実績の概要 |
本研究では、リアルタイム脳機能MRIと脳波-脳機能MRI同時測定システムを融合し、空間的解析に加えて時間軸の解析も取り入れてヒトの高次脳機能神経回路や精神症状を経時的に解析出来るシステム構築を目指す。解析対象疾患は、パーキンソン病の幻視、脳腫瘍症例におけるワーキングメモリと言語機能としている。幻視は特にその変動の機序と、離れた領野間の動的連携の機序解明に迫る。ワーキングメモリと言語は、脳腫瘍例において術前、術後の変化を比較して、空間的・時間的ネットワークの代償機転を探索し、術中検証も行う。今回の研究を通じて高次脳機能や精神症状に関し、従来の責任領野オリエンテッド、もしくは責任領野間のスナップショット的解析(静的症候学)の限界を超えたダイナミクス解析(動的神経ネットワーク症候学)の確立へとつなげていく。 本年度は、EEG-fMRIを用いてワーキングメモリ課題の1つであるN-back課題中の脳活動の可視化を試みた。健常者10名に対し、3.0T MRIを用い、32チャンネルの脳波を同時計測した。タスク中に、ワーキングメモリに関連する外側前運動野 (BA6)、背外側前頭前野 (BA46)、腹外側前頭前野 (BA 45) の活動を確認した。EEG-fMRIを用いた解析では、タスク開始後200msの間に、75ms、100ms、175msにおいて、それぞれ前頭葉腹内側面、背内側面、頭頂後頭葉へとダイナミックにBOLD活動が移動する状態をsub-secondレベルで確認出来た。今後、本方法を用い、平成28年度は、疾患と健常者における所見の対比を検討する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、パーキンソン病症例における幻視、脳腫瘍症例におけるワーキングメモリと言語機能を研究対象とし、リアルタイム機能的MRIと脳波-機能的MRI同時測定システムの測定を多数例で実施する。パーキンソン病の幻視は、錯綜図やパレイドリア試験時の正答と誤答における脳活動や意識レベルの変動を評価するとともに、実際に幻視が生じている際の脳活動を観察することで、従来は点と点、もしくは線と線であった幻視の理解を時間軸や領野間の働きを加えた四次元的理解へと高めることを目指す。また脳腫瘍手術前の症例においてワーキングメモリや言語機能評価を行い、術中、術後の画像検査と臨床評価を対比することで、複数の領野が関与するワーキングメモリや言語機能の機序解明につなげていくことである。 本研究は、従来は点と点、もしくは線と線であった高次脳機能や幻視をはじめとした神経精神症候の理解を時間軸や領野間の働きを加えた四次元的理解へと高めることを目指しているが、本年は、これまでは時間分解能に限界があるため困難であったサブセカンドレベルのBOLD活動を、脳波を同時計測することで評価出来る方法の確立を目指した。脳波データと脳機能MRIデータは、support vector machine for regressionを用いて両データの関係を解析し、さらに時間周波数解析を併せて実施し、短時間の周波数変化を把握し、機能的MRIや安静時機能的MRIのデータと突合出来るようにすることで、リアルタイム脳波-機能的MRIを用いてヒトの脳で起こっているワーキングメモリタスクの活動状態を可視化した点は、大変大きな進歩と考えている。これらは、従来の責任領野オリエンテッドなスナップショット解析(静的症候学)をリアルタイム脳波-機能的MRIを用いたダイナミクス解析(動的症候学)へと進化させていくことが期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、平成27年度に開発した方法を用い、パーキンソン病を対象として、錯綜図やパレイドリア試験を行っている際の正答と誤答における脳活動や意識レベルの変動、実際に幻視が生じている際の脳活動の観察をすることで、従来は点と点、もしくは線と線であった幻視の理解を空間軸に時間軸を加えた解析により四次元的理解へと高めることを目指す。また、脳腫瘍例では術前にワーキングメモリや言語機能評価を行い、術中、術後の画像検査と臨床評価を対比することで、複数の領野が関与するワーキングメモリや言語機能の発現機序解明につなげていく。研究分担者前澤は、言語性ネットワークについて、機能的MRIを用いて言語野(Broca野)を同定し、名古屋大学工学部が考案した3Dバーチャル画像に重畳して術前情報として活用しながら覚醒下手術・術中マッピングによってその整合性を検討し、同定してきた。さらに刺激して陽性所見のあった場所は術中MRIナビゲーションシステムで画像所見と術中所見の対応も検討している。リアルタイム機能的MRIと脳波-機能的MRI同時測定システムをワーキングメモリタスクと言語タスクを併用して脳腫瘍患者の術前評価として行い、術中マッピング所見や術後の評価との対比を行う。一連の研究は、より安全な手術法を確立するとともに、画像所見の意義付けをより高めることが期待出来る。 一連の動的神経ネットワーク症候学に基づく、高次脳機能や精神症状の解析は、幻視、ワーキングメモリ、言語の理解について飛躍的向上をもたらすことが期待される。また発展途上の解析システムも併せてアップデートもしくは開発し、出来上がったソフトフェアは幅広く他の研究者が利用出来る形式とし、公開を目指していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
1月以降に使用した患者検査(MRI、PET、MEG)の支払いが平成28年度になる。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度より翌年度にかけて予定している患者検査(MRI、PET、MEG)への支払いに充当する。
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