研究課題/領域番号 |
15K15340
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
前田 敏彦 山口大学, 医学部附属病院, 助教 (50738961)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 血液神経関門 / 抗MAG抗体関連ニューロパチー |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,真に有効な治療法が確立されてない抗MAG抗体関連ニューロパチーについて,末梢神経の微小血管系の病態に着目し,研究代表者の研究室で近年確立されたヒトin vitro BNB モデルを用いて,本疾患で生じる血液神経関門(blood-nerve barrier: BNB)の破綻メカニズムを細胞レベル・分子レベルで解析することにより,本疾患の病態解明に寄与することである. 初年度の検討として,IgM型抗MAG抗体関連ニューロパチー血清が,血液神経関門(BNB)の首座である末梢神経神経内膜内微小血管内皮細胞(以下,BNB構成内皮細胞)のバリア機能に与える影響の検討を行った.具体的には,BNB構成内皮細胞株をcell culture insert に単層培養してin vitro BNB modelを作成し,患者血清をinsert の上室(流血側)に作用させた後に,バリア機能の指標である電気抵抗値を,健常者血清を対照として測定した.さらに,患者血清で処理した血管内皮細胞のtight junction 分子の蛋白量への影響についても,健常者を対照としてwestern blot 法で評価した.患者血清は,健常者血清に比較し,単層培養したBNB構成内皮細胞の電気抵抗値を有意に低下させることが明らかとなった.また患者血清の作用により,バリア維持のために重要な複数のtight junction分子の蛋白量の低下がみられた.これらのことから抗MAG抗体関連ニューロパチー患者血清中のなんらかの因子がBNBのバリア機能を低下させることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
抗MAG 抗体関連ニューロパチー血清が,BNBの首座である血管内皮細胞のバリア機能に直接的影響を与え,さらに,バリア構成分子であるtight junction分子の発現量への影響を明らかにした点は,初年度の検討で得られた新たな成果であり,本疾患の病理所見で認められるBNB破綻を,in vitro BNBモデルを用いることで再現できる可能性を示すことができた.培養細胞を用いた研究の利点を生かし,バリア破綻の分子レベルでの解析を引き続き行っていく. BNB構成細胞には,内皮細胞の他に周皮細胞がありBNBのバリア機能を維持するのに重要な役割を持つとされる.本研究では,BNB構成内皮細胞だけでなく,周皮細胞にも着目しており,当研究室で樹立した周皮細胞株を用いて,患者血清による周皮細胞の細胞傷害への影響について,現在検討を行っている.
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討で,in vitro BNBのバリア機能を低下させることが明らかとなった抗MAG抗体関連ニューロパチー血清中の液性因子の候補としては,炎症性サイトカインや免疫グロブリンなど様々な分子が考えられる.疾患を特徴づける血清中のIgM 単クローン抗体(抗MAG 抗体)は,候補分子の一つとして考えられるため検証を行う.方法としては,ヒトIgM の分離カラムを用いて,患者および正常血清から単クローンIgMを回収し,健常者血清由来のIgMを対照として,同濃度の患者由来の単クローンIgM を培養液に添加した条件で,BNB構成内皮細胞を一定時間培養し,バリア機能におよぼす影響やtight junction 分子の定量解析を行う予定である.さらに,本疾患において流血中のIgMがBNBを越えて神経実質内に浸潤するメカニズムに関して,BNB構成内皮細胞にIgMの輸送担体が存在する可能性に着目し検討していく予定である.
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