昨年度までに、血液神経関門(blood-nerve barrier: BNB)を構成する内皮細胞を用いたインヴィトロモデルを作成し、IgM型抗MAG抗体関連ニューロパチー患者血清から精製したIgM抗体をこのBNBモデルに作用させる検討を行い、本疾患のIgM抗体がBNBを直接破綻させることを明らかにした。 本年度は、本疾患のIgM型単クローン抗体がBNB構成細胞のどのような分子を標的としているかに着目して細胞学的検討を行った。本疾患のIgM型単クローン抗体はmyelin associated glycoprotein(MAG)やsulfated glucuronyl paragloboside(SGPG)以外にも、HNK-1エピトープを有するmyelin protein zero(MPZ)やperipheral myelin protein 22(PMP22)にも反応することが知られているが、BNB構成細胞にこれらの分子が存在するかについて明らかにするため、ヒト末梢神経神経内膜内微小血管に由来する内皮細胞株および周皮細胞株を用いて、MAG、MPZ、PMP22の遺伝子・蛋白レベルでの存在を検討した。内皮細胞株と周皮細胞株では共にMPZとPMP22の遺伝子・蛋白の発現を認め、MPZとPMP22の一次抗体を用いた免疫染色で、細胞辺縁への染色性が確認され、MPZとPMP22は共にBNB構成細胞の細胞表面に存在する可能性が示された。一方、MAGの遺伝子・蛋白はBNB構成細胞株には検出されなかった。ヒトBNB構成内皮細胞株と周皮細胞株にMAGは存在しなかったが、MPZとPMP22が存在し、IgM型単クローン抗体がBNBを破綻させる機序として、これらの分子を標的にしている可能性が明らかとなった。
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