研究課題
膵β細胞からのインスリン分泌機構の詳細を理解するために、インスリン分泌細胞株であるMIN6細胞に遺伝子導入し、安定細胞株を作成する方法を検討している。平成27年度には、RMCE法による遺伝子導入を可能とし、遺伝子過剰発現インスリン分泌細胞株をラージスケールで作成することを可能とする方法の第一段階を確立した。最終的に遺伝子の挿入部位を決定することができた。これまでに知られた遺伝子であり、β細胞での発現が豊富である遺伝子であった。また、この遺伝子のノックアウトで問題が生じることがないことが報告されているので、我々の作成したシステムでは、安全な場所への挿入が可能となっていると結論できた。平行して、20 mMのグルコースによるインスリン分泌応答が5 mMグルコース時の8~11倍になるインスリン分泌の良いクローン3つと2~5倍であるインスリン分泌の低下した3つのクローンの転写産物をDNA mcroarrayで比較検討した。分泌の良い3つのクローンに共通して発現が増加し、分泌の悪いクローンで共通して発現が低下している遺伝子、あるいはこの逆の関係になっている遺伝子を抽出したところ、約1,000個が存在した。これらの中で、すでに遺伝子名が付与されている遺伝子は約650であった。これらの中には、約30個のこれまでにインスリン分泌に重要な役割を果たすことが知られている遺伝子が抽出されてきており、この方法が適切なものであることを示していた。このうち、cDNA長が2500bp以下で、他のmicroarrey 解析で、実際のβ細胞で発現が認められているものを中心に100個を選択し、現在74個について、遺伝子過剰発現がインスリン分泌に与える効果を検討し終えた。 その結果、約10個のインスリン分泌に重要な役割を果たすと考えられる新規遺伝子を同定することができた。
2: おおむね順調に進展している
RMCE法による遺伝子導入を可能とし、遺伝子過剰発現インスリン分泌細胞株をラージスケールで作成することを可能とする方法の第一段階を確立した。また、100個近い遺伝子の過剰発現細胞を作成することで、新規のインスリン分泌に重要な遺伝子の同定ができた点は、順調な進捗といえる。ただし、遺伝子発現を抑制する方法の確立において、shRNAを発現する系は、確立しつつあるものの、CRISPRを利用する系が、CRISPRの遺伝子が大きく、扱いに手間どっており、遅れが生じている。
MIN6細胞において、遺伝子発現を抑制する方法を確立することをまず第一に行う。これによって、本日までに同定されたインスリン分泌に重要な新規遺伝子をさらに検証することができる。同時に、過剰発現がインスリン分泌に変化を与える遺伝子については、細胞内代謝の流れ等を解析中であるが、さらにこれを推し進めていく。また、インスリン分泌の良いクローンと低下しているクローンの間で、発現が異なる遺伝子の中には約100個のlncRNAが存在していた。これらについても、過剰発現あるいは発現抑制を行って、インスリン分泌への効果を解析する予定である。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
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