研究課題/領域番号 |
15K15356
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
林 良敬 名古屋大学, 環境医学研究所, 准教授 (80420363)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | グルカゴン / ランゲルハンス島 / α細胞 / アミノ酸 / mTOR |
研究実績の概要 |
膵臓ランゲルハンス島の内分泌細胞の増殖制御機構は未解明である。β細胞については、肝臓におけるインスリン抵抗性が上昇すると、血糖上昇がみとめられない時期から、代償性にβ細胞が増殖する。Melton DAらはβ細胞の増殖を促進する液性因子、βトロフィンを同定したと報告したが、その後この因子のβ細胞増殖促進作用は確認されていない。 グルカゴン受容体欠損動物はα細胞の増殖、対照群より低い血糖値、さらに血中GLP-1(グルカゴンの前駆体であるプログルカゴンより作られる)の著しい上昇を示す。このことから、血糖値の低下やGLP-1の上昇がα細胞の増殖制御に関与する可能性が考えられてきた。 我々が作成したグルカゴン遺伝子欠損マウス(GCGKO、グルカゴン遺伝子-GFPノックインマウスのホモ接合体)は、GFPを発現する膵島α細胞の過形成を示す。GCGKOはグルカゴン受容体欠損動物とは異なりGLP-1を欠損するとともに、血糖は正常である。このことから、血糖値の低下やGLP-1の上昇はα細胞の増殖の必要条件ではないことが明らかとなった。そこで、α細胞の増殖を促進するα-trophin または 抑制するα-statinを同定することを目的として、本研究を計画した。 近年糖尿病の病態においてグルカゴンの過剰分泌が関与するといわれている。新たな糖尿病治療薬の可能性として、グルカゴン拮抗薬が研究されているが、同薬はα細胞の増殖を促進する可能性が高い。その結果、グルカゴン分泌能は増大し、長期的には糖尿病の悪化を促進するおそれがある。本研究によりα-trophin/statinが同定されれば、そのアンタゴニスト/アゴニストは、ただちにα細胞増殖抑制薬の候補となる。α細胞増殖抑制は、必然的にグルカゴン分泌能も抑制することから、グルカゴン拮抗薬より治療手段として優れたものとなることが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
α細胞の増殖の制御が液性因子によるか、神経系のシグナルによるかは明らかでなかった。そこでGCGKOの膵臓よりGFP陽性α細胞を採取して、GCGKOよび対照マウスの腎臓の被膜下へ移植する実験を行い、移植1ヶ月後にGFP陽性α細胞の増殖を評価した。GCGKOに移植されたGFP陽性細胞では細胞増殖マーカーであるKi67を発現する細胞が12.0+/-5.8%みとめられたのに対して、対照マウスに移植された細胞ではKi67を発現するものはみとめられなかった。この結果からGCGKOの液性環境がGFP陽性細胞の増殖を促進していること、すなわち、GCGKOではα細胞増殖促進因子が増加している、またはα細胞増殖抑制因子が低下していることが確認された。 これと並行して、GCGKOにおいてはGFP陽性細胞の過形成が進行性で、肝臓や肺への転移能を伴う神経内分泌腫瘍の発症にいたることを確認し、上記の移植実験結果とともに論文として報告した(PLoS One 2015)。 一方で、GCGKOの肝臓で発現が増加している遺伝子を同定し、そのうち液性因子をコードするものについて、その組換えタンパク質のGFP陽性細胞の増殖促進作用を検討した。しかしながら、これら液性因子の細胞増殖促進活性は認められなかった。 一方、GCGKOの肝臓においては、アミノ酸を糖新生の基質へと転換するセリンデヒドラターゼなどの酵素遺伝子の発現が低下しているため、アミノ酸異化が停滞することにより血中アミノ酸濃度が上昇することが明らかとなっている。これまでにアミノ酸濃度が高い培地ではGFP陽性α細胞の生存率が改善することを示す結果が得られているため、今後はアミノ酸そのものが増殖促進因子である可能性も含めて検証する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの解析から、肝臓に由来する膵島α細胞増殖制御因子が単一遺伝子にコードされる因子である可能性は低くなってきているが、その探索は今後も続行する。一方、アミノ酸そのものがα細胞の増殖制御に関わる可能性が高くなっている。しかしながらアミノ酸が選択的に膵島α細胞の増殖を制御する機構は全く明らかでない。高タンパク質食負荷によりα細胞の増殖や血中グルカゴン濃度がどのような影響を受けるか、またmTOR阻害薬がα細胞の増殖が前述した神経内分泌腫瘍の増殖に及ぼす影響の解析を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度より共同での使用が可能となった機器類が増えたため、想定していた機器を平成27年度中に購入する必要がなくなり、機器を再検討したうえで平成28年度に購入する予定とした。また、消耗品も、他の研究経費で購入したものと共通で使用できたため、他の研究経費を優先的に使用した結果、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
動物実験費用、アミノ酸代謝解析(アミノ酸濃度測定、アミノ酸代謝関連酵素群の遺伝子レベルおよびタンパク質レベルでの発現解析)など消耗品・その他の支出を中心として使用する予定である。
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