研究課題
我々が作成したグルカゴン遺伝子欠損マウス(GCGKO、グルカゴン遺伝子-GFPノックインホモ接合体)は、GFPを発現する膵島α細胞の過形成を示す。GCGKOはグルカゴン受容体欠損動物とは異なりGLP-1を欠損するため正常血糖を示す。このことから、血糖値の低下やGLP-1の上昇はα細胞の増殖の必要条件ではないことが明らかとである。そこで、α細胞の増殖を促進するα-trophin または 抑制するα-statinを同定することを本研究の目的とした。まずα細胞の増殖の制御が液性因子によるか、神経系のシグナルによるか、不明であったため、GCGKOの膵臓よりGFP陽性α細胞を採取して、GCGKOよび対照マウスの腎臓の被膜下へ移植する実験を行い、移植1ヶ月後にGFP陽性α細胞の増殖を評価した。GCGKOに移植されたGFP陽性細胞では細胞増殖マーカーであるKi67を発現する細胞が12.0+/-5.8%みとめられたのに対して、対照マウスに移植された細胞ではKi67を発現するものはみとめられなかった。この結果からGCGKOの液性環境がGFP陽性細胞の増殖を促進していること、すなわち、GCGKOではα細胞増殖促進因子が増加している、またはα細胞増殖抑制因子が低下していることが想定された。そこで、GCGKOの肝臓で発現が増加している遺伝子を同定し、そのうち液性因子をコードするものについて、その組換えタンパク質のGFP陽性細胞の増殖促進作用を検討したが、α細胞増殖促進活性を示す液性因子は同定できなかった。GCGKOの肝臓においては、アミノ酸を糖新生の基質へと転換するセリンデヒドラターゼなどの酵素遺伝子の発現が低下しているため、アミノ酸異化が停滞することにより血中アミノ酸濃度が上昇することが明らかとなっている。今後アミノ酸自体がα細胞の増殖を制御する可能性およびその機構を解析していく必要がある。
2: おおむね順調に進展している
α細胞の増殖を促進するα-trophin、あるいは、抑制するα-statinを同定することを本研究の目的としたが、α細胞の増殖を制御する特異的な因子の同定には至らなかった。しかしながら、制御因子が液性因子であることおよび、アミノ酸自体がα細胞の増殖を制御していることを示すオリジナルのデータを得たことは、我々が作成したグルカゴン遺伝子欠損マウスがグルカゴン作用およびα細胞の増殖制御機構を解明していく上で、非常に有用なモデルであることが確認された。
これまでの解析から、α細胞の増殖制御はα-trophin,α-statinといった特異的な液性因子より制御される可能性よりむしろ、生体におけるアミノ酸代謝制御と密接に絡み合っている可能性が強くなっている。今後、アミノ酸代謝に関わる遺伝子群の発現が胎生期から離乳期にかけてどのように変動するか、どのような日周変動を示すか、さらに、グルカゴンによるアミノ酸代謝制御にどのような細胞内シグナル伝達機構が関与する、高蛋白質食負荷により血中アミノ酸濃度がどのような影響受けるかといった解析を進める予定であるが、これと並行して膵島内分泌細胞の分化・増殖を解析することにより、α細胞の増殖制御機構の本質に迫ることができると考えている。
本研究計画における、高蛋白質食を負荷する実験を3月まで行ったため、3月の動物施設利用料および血中アミノ酸濃度測定に関わる経費を、4月以降に使用することとした。
動物施設利用料および物品費として用いる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 1件、 招待講演 8件)
Diabetologia
巻: 59 ページ: 1533-1541
doi: 10.1007/s00125-016-3935-2.
Journal of Diabetes Investiation
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