これまで申請者の研究室では、細胞間情報伝達物質として未知の生理活性ペプチドを数多く発見し、新たな生体調節機構を明らかにしてきた。近年では、成長ホルモン分泌促進因子受容体(GHS-R)の内因性リガンドとして、ラット胃よりグレリンの発見に成功している(Kojima et al. Nature 1999)。グレリンは成長ホルモン分泌促進作用だけでなく強力な摂食亢進作用を有することが明らかとなり、現在は治療応用へと研究を展開している。 グレリンの3番目のセリン残基は、中鎖脂肪酸であるオクタン酸修飾を受けている。この修飾基はグレリンの活性発現に必須であり、グレリンO-アシルトランスフェラーゼ(GOAT)により修飾される。ラットにおいてGOAT mRNAは胃だけでなく、中枢神経系にも高発現している。一方、中枢神経系におけるグレリンmRNA発現量は胃と比較して非常に低く、グレリンの他に脂肪酸修飾ペプチドが同定されてないことより、未知の脂肪酸修飾ペプチドの存在が示唆される。本研究では脂肪酸修飾された新しい生理活性ペプチドを同定し、細胞や個体レベルでの機能解析することを目的に研究を遂行する。 リガンドの物性が同じ受容体間におけるアミノ酸配列の相同性は高いことが知られており、本研究にて同定される新規脂肪酸修飾ペプチドの一部は、GHS-Rに相同性の高い受容体の内因性リガンドであることが予想される。そこで平成28年度は、GHS-Rに相同性が高く、リガンド不明な受容体であるPGR2、PGR3に対し、特に中枢神経系を標的としてリガンド探索を実施した。現時点にて、内因性リガンドの同定には至ってないが、引き続き探索を継続する。
|