研究課題
造血幹細胞の機能は、微小環境(ニッチ)からのシグナルによって、厳格な制御を受けている。以前の研究において、申請者らは、交感神経を介した刺激が、骨髄洞血管内皮の接着因子の発現レベルを調節することにより、造血幹細胞への骨髄への移入をも制御していることを、マウス頭蓋骨髄の生体イメージング技術を用いて明らかにした。更に、骨髄の3次元イメージング法を開発し、骨髄の血管は、細動脈と骨髄洞という2種類の血管によって構成され、細動脈は静止状態の維持、骨髄洞は増殖やトラフィッキングというような造血幹細胞の異なる機能を支持しており、更に、これらの血管は異なる種類の血管周囲細胞によって解剖学的かつ機能的に区別されることを明らかにした。興味深いことに、細動脈のみが解剖学的に交感神経支配を受けており、骨髄洞は、直接的な神経支配を受けておらず、交感神経からの刺激が、どのような経路、細胞を介して骨髄洞の機能を制御しているかは、不明である。オプトジェネティクスとは、光受容体(ChannnelRhodopsin)を組織特異的に発現させるシステムである。電気刺激の代わりに、光刺激によって交感神経特異的に神経伝達を誘導することができるマウスモデル(tyrosine hydroxylase(TH)-cre/Rosa-ChR2-tdTomatfl/stop/fl)を樹立した。また、VE-cadherin-Cre/Rosa-GCaMP3fl/stop/flマウス系統と組み合わせるで、より低侵襲的な神経刺激により、血管内皮細胞内、細胞間のシグナル伝達の可視化が可能となった。更に、上述マウス頭蓋骨髄生体及びex vivo3次元イメージング技術を用いることにより、神経刺激が、細動脈から骨髄洞へどのように伝わるかを分析することで、交感神経により骨髄機能がどのように制御を受けているかの解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
(1)骨髄における神経-血管内皮・ストローマ細胞シグナル伝達の可視化骨髄血管において、細動脈のみが、直接の神経支配を受けており、骨髄洞は、直接的な支配は受けていないため、交感神経からのシグナルがどのように骨髄洞へ伝達するかは不明である。本申請課題は、末梢交感神経をより選択的に刺激するためにオプトジェネティクスマウスモデルを使用し、Intravital microscopyを用いて、血管やストローマ細胞における細胞内のCa++放出を可視化することにより、神経からのシグナル伝達の解明を目的としたものであった。始めに、VE-cadherin-creERT2 / Rosa-GCaMP3fl/stop/flマウス系統を樹立した。この系統では、タモキシフェン投与後に血管内皮特異的にCa++インディケーターであるGCaMP3が発現するもので、現在このマウス系統と交感神経特異的に光受容体を発現するマウス系統(TH-cre / Rosa-ChR2-tdTomatofl/stop/fl)との交配を行った。オプトジェネティクスマウスモデルを用いて行うことで、光刺激によりより選択的に交感神経刺激を行う方法を確立し、より特異的な刺激による変化が観察できるシステムを開発した。(2)骨髄内における神経-血管シグナル伝達を担う細胞及び分子の同定骨髄洞周囲のストローマ細胞を特異的に標識するLepr-cre / Rosa-GCaMP3fl/stop/flマウス系統を樹立し、更にオプトジェネティクスマウスと交配することで、光による頚部交感神経刺激によるこのストローマ細胞におけるCa++シグナルの変化、伝播をマウス頭蓋Intravital microscopyにて経時的に観察した。刺激後、大腿骨髄よりNG2陽性、レプチン受容体陽性ストローマ細胞を分離し、網羅的に遺伝子発現を解析し、刺激伝達に関与する他の分子の同定を目指している。
本研究課題で得られた候補遺伝子を検証し、その遺伝子に関して遺伝子操作マウスの作成を行い、マウス個体内において、神経から血管、更には骨髄全体へのシグナル伝達にどのように寄与しているかを確認する。また、本研究とは別の研究課題において、正常造血幹細胞の静止状態と増殖を支持するニッチの相違を特定するために成人骨髄と胎児肝臓よりNestin-GFP陽性間葉系幹細胞を分離し、RNAシーケンスを行いその遺伝子発現について比較した。その結果、解析した遺伝子の90%以上はその発現に違いが認められず、胎児肝臓と成体骨髄においてニッチを形成する間葉系幹細胞は相同性が高いことが明らかとなった。両細胞間で発現の異なる遺伝子を詳細に解析し、細胞周期や増殖に関わる遺伝子群においてその発現に相違が認められた。以上の結果より、間葉系幹細胞は、成体骨髄では静止状態で、胎児肝臓では増殖して存在しており、造血幹細胞の増殖との間に、正の相関が見出された。本研究により確立したレーザースピニングディスク共焦点顕微鏡、オプトジェネティックス、カルシウムイメージングを用いて、胎児肝臓、骨髄の発生過程をリアルタイムに、生理学的条件下で観察することを試みる。また、この生体内イメージング技術は、癌細胞を体外に取り出すことなく、生理学的条件下でその動態(接着、浸潤、増殖)を観察することができるという点で、癌細胞機能を評価するうえで有用な方法と考えられる。このように、この研究課題によって得られた技術や結果を、骨髄に留まらず、他の臓器の幹細胞研究や癌研究へ応用する。
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