研究課題
がん克服へ治療標的として、がん幹細胞自身を標的とした新規治療法の開発が求められている。そのためには、がん幹細胞の純化、純化がん幹細胞の生体内での機能を解析する必要がある。この解析のために必須の基本技術が、高度免疫不全マウスを用いた異種移植アッセイシステムである。ヒトがん幹細胞を標的とする新世代のがん治療法は、急性骨髄性白血病(AML)において、その実用化が目前である。これは、免疫不全マウスを用いた異種移植アッセイ系の確立によって、白血病幹細胞の高度純化が可能となり、その分子学的基盤の解明が進んだことによる。一方で、現存の異種移植アッセイ系では、ヒト造血細胞の生着効率が著しく改善されたが、急性白血病以外の造血器腫瘍や固形癌では十分な生着が得られない。したがって、さらに生着効率を高めた汎用性の高いラインの樹立が必要である。本研究では、より広いがん種におけるがん幹細胞の同定とその根絶法の開発を可能にする技術基盤確立のために、「完全マクロファージ寛容」「骨髄ニッチオープン化」導入により、マウス骨髄微小環境を改変し、既存の移植効率を大幅に上回る次世代免疫不全マウスを開発することを目的としている。我々は、すでに、B6バックグラウンドで、Rag2欠損、IL2Rg欠損に、骨髄ニッチオープン化のためのKit変異を導入したB6.Rag2(null)IL2Rg(null)Kit(Wv/Wv)マウスを樹立した。現在は、マウスコロニーの拡大と、正常造血幹細胞の生着効率の検証を行い、極めて高いヒト造血細胞の生着が得られている。次年度では、引き続き、新規マウスラインの検証とともに、ヒトSIRPAノックインマウスとの交配を行い、マウス内での疾患再構築と、幹細胞分画の同定を進めていく予定である。
2: おおむね順調に進展している
急性骨髄性白血病においては、既存の免疫不全マウスを用いた異種移植系によって、がん幹細胞のアッセイが盛んに行われ、白血病幹細胞の同定とともに、幹細胞を直接標的とした治療開発が進んでいる。急性白血病以外の造血器腫瘍や固形腫瘍では、既存の免疫不全マウスの実験系では、生着率が極端に低く、マウス内での疾患再構築が得られない。このため、がん幹細胞の純化・同定が進んでいない。このため、より広いがん種におけるがん幹細胞の同定とその根絶法の開発を可能にする技術基盤確立のために、「完全マクロファージ寛容」「骨髄ニッチオープン化」導入により、マウス骨髄微小環境を改変し、既存の移植効率を大幅に上回る次世代免疫不全マウスを開発することを目指している。我々は、マウスへのヒト細胞の生着にマクロファージ寛容が重要な役割を持つことを見出しており、本課題では、ヒト型SIRPAをノックインし、完全なマクロファージ寛容を導入した免疫不全マウスの樹立を試み、すでに、このラインは完成し、その機能について、現在検証中である。さらに骨髄ニッチオープン化のためのKit変異を導入B6.Rag2(null)IL2Rg(null)Kit(Wv/Wv)マウスを樹立した。今年度では、マウスコロニーの拡大と、正常造血幹細胞の生着効率の検証を行い、極めて高いヒト造血細胞の生着が得られている(Stem Cell Reports 2016)。新規ラインのため、マウスの交配に時間を要しているが、次年度では、引き続き、新規マウスラインの検証とともに、ヒトSIRPAノックインマウスとの交配を行い、マウス内での疾患再構築と、幹細胞分画の同定を進めていく予定であり、研究計画はおおむね順調に進行している。
これまでに、基礎となるマウスラインの樹立が完了し、現在、マウスコロニーの拡大を行い、実験に必要なマウス数の確保を目指している。同時に、B6マウスとのバッククロス、および凍結胚による保存を並行して進めている。マウスコロニーの拡大など、新規ラインの使用には時間がかかるため、次年度も引き続いてラインの確立を継続する。このように、我々の樹立したがん幹細胞アッセイに最適化した次世代マウスラインを用いて、様々な表面抗原群を組み合わせて、広くがん幹細胞分画を同定する。現在の固形がんの異種移植アッセイでは、分離した幹細胞分画は、皮下投与で移植されるが、生着効率が低く、詳細な幹細胞分画の同定が困難であった。本課題で樹立するマウスラインでは、ヒト移植片に対して完全なマクロファージ寛容が成立しており、幹細胞分画を皮下投与しても、マウス皮下に存在するマクロファージによって拒絶されることなく、高効率な生着が期待できる。同定されたがん幹細胞を用いて、細胞生物学的解析やディープシーケンサーを用いた遺伝学的解析を行い、幹細胞レベルで獲得されている遺伝子変異や、異常splicing等、腫瘍性幹細胞化の鍵となる異常を明らかにする。純化された少数の幹細胞分画の細胞でプロファイリング可能なsingle cell QPCR系、RNA-Seq解析系の確立も同時に並行して進めており、異種移植アッセイによる機能的幹細胞分画の純化と、スモールスケールでの新規プロファイリング解析系を組み合わせることにより、幹細胞の腫瘍化や病期進行に鍵となる遺伝子・転写因子の抽出から腫瘍化メカニズムを解明するとともに、腫瘍性幹細胞特異的に発現する治療表面分子の同定を試みる。
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 謝辞記載あり 2件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 1件、 招待講演 6件)
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