研究課題
眼球運動失行と低アルブミン血症を伴う早期発症型失調症 (Early onset ataxia with ocular motor apraxia and hypoalbuminemia, EAOH)は、幼少期発症の常染色体劣性遺伝性の小脳失調症である。責任遺伝子はAPTXであり、コードするAprataxin蛋白(APTX)は、DNA一重鎖切断修復 (Single Strand Break Repair, SSBR)に関与するとされている。しかし、最近SSBRがDSBRに関与しているという研究結果が報告されてきている。一方、毛細血管拡張性運動失調症(Ataxia-Telangiectasia, AT)の原因であるATM蛋白は、DNA二重鎖切断修復 (Double Strand Break Repair, DSBR)に関与し、その障害により免疫不全を呈する。EAOHとATは、小脳失調症状の特徴を共有する。しかしATで認められる小脳失調以外の合併症(免疫不全、腫瘍罹患など)をEAOHでは認めないとされてきた。申請者は、新たにEAOHでATと同様の毛細血管拡張を起こすことを見出した。さらに、申請者は、EAOH 9症例の免疫学的解析を施行し、T細胞、B細胞の発生障害を合併していることを見出した。すなわち、EAOHではナイーブT細胞の著減、B細胞欠損、T細胞新性能を示すマーカーTRECの低値、B細胞新生能を示すマーカーKRECの低値を認めた。TREC/KRECはV(D)J組み替えの時に生じる環状DNAであることから、T細胞とB細胞の発生障害がDNA二重鎖切断修復機構で起きるV(D)J組み替えの段階にあることを示唆し、EAOH患者ではDNA二重鎖切断修復に異常が起きていると考えられる。本研究によりAPTX異常により、DNA二重鎖切断修復に異常が起き、その結果、神経細胞に加え、T細胞、B細胞の発生障害が起きる事を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
EAOHでATと同様の毛細血管拡張を起こすことを見出した。さらに、EAOH 9症例の免疫学的解析を施行し、T細胞、B細胞の発生障害を合併していることを見出した。見出した異常は、ナイーブT細胞の著減、B細胞欠損、T細胞新性能を示すマーカーTRECの低値、B細胞新生能を示すマーカーKRECの低値である。TREC/KRECはV(D)J組み替えの時に生じる環状DNAであるので、DNA二重鎖切断修復機構で起きるV(D)J組み替えの段階に異常があることを示している。本研究によりAPTXは、DNA一重鎖切断修復機構に加え、DNA二重鎖切断修復機構にも関与し、神経細胞分化障害に加え、免疫細胞分化障害も引き起こしていることを明らかにした。
EAOH患者由来細胞のDNA二重鎖切断修復について、放射線、各種薬剤を用いて検討する。陽性対象として、AT由来細胞、Lig.IV欠損症由来細胞、RAG欠損症由来細胞などDNA二重鎖切断修復機構の異常が明らかになっている細胞を用いる。これによりEAOHの原因遺伝子APTXがDNA一重鎖切断修復のみならずDNA二重鎖切断修復修復にも関与している事を示す。さらに、DNA一重鎖切断修復がDNA二重鎖切断修復と密接に関与していることが、ごく最近の研究で明らかになってきているが、その明確な機構は不明である。そこで、APTX変異によるEAOHを疾患モデルとして解析し、DNA一重鎖切断修復異常とDNA二重鎖切断修復異常の関係を明らかにし、さらに免疫神経細胞分化障害への関与を解明する。
購入予定額より安価で購入できたことによる差異である。
研究計画に合わせて消耗品を購入予定である。
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