研究課題/領域番号 |
15K15405
|
研究機関 | 金沢医科大学 |
研究代表者 |
八田 稔久 金沢医科大学, 医学部, 教授 (20238025)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
|
キーワード | 胎盤関門 / 胎盤絨毛 / 母胎間シグナル伝達 / DOHaD |
研究実績の概要 |
母体環境に起因する胎児のエピゲノム変化を、出生後の慢性疾患の形成素因とする仮説(胎児起源仮説、DOHaD)は、病因形成の新しい概念として注目されている。我々が同定した母胎児間シグナルリレー(母体LIF-胎盤ACTH-胎児LIF)による胎児の発生調節機構(Simamura et al, 2010)は、DOHaD仮説を検証するうえで重要なモデルである。このモデルにおいて母胎間シグナルの伝達を効率よく行うための組織構築が胎盤に存在することが予想されていた。本研究課題では、我々が開発してきた超広視野、高倍率観察が可能な共焦点レーザー顕微鏡ベースの画像取得装置を用いて、胎盤絨毛間腔(母体側)と絨毛血管(胎児側)をダイレクトに架橋する情報伝達装置の存在を証明する。具体的には、以下の内容について検討を行う。1. 深部観察を可能とする胎盤組織の透明化プロトコルを確立する。2. 胎盤に存在するアストログリアおよび神経幹細胞に対してGFAP免疫染色を施し、陽生細胞の全体像を描出する。3. 脂溶性カルボニアン色素DiIを用いて、絨毛間腔と毛細血管を架橋する突起のトレースを試みる。すなわち、順行性標識、逆行性標識を行った後に、DiI標識した胎盤を透明化し、共焦点スキャナにて観察する。4. 上記方法にて架橋構造を描出することができた場合、薄切した連続切片の透過型および走査型電子顕微鏡観察を行う。5. 妊娠マウスにgp130過剰刺激(poly I:C、LPS等)状態を引き起こすことで、架橋構造に一致して、リン酸化STAT3が過剰に検出されることが期待される。これを免疫染色することで、シグナル伝達経路の可視化を行う。 本研究により得られる成果は、血液胎盤関門に関する新たな解釈の提案につながる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の遂行において、広範囲かつ深部観察を可能とする胎盤の組織透明化は非常に有効である。しかしながら、これまで報告された組織透明化技術では、胎盤は十分に透明にはならない。そこで、我々は独自の組織透明化プロトコルを検討し、胎盤の深部観察が可能な透明度が得られるプロトコルをほぼ確立した。このプロトコルでは、AlexaやFITCおよび各種蛍光タンパク質の活性も維持され、単光子共焦点レーザー顕微鏡でも2mmまでの深部観察が可能である。ただし、DiIについては、局在を維持することができないため、現在のプロトコルでは対応できておらず、更に改良が必要である。 我々が想定している母胎間の架橋構造は、絨毛間腔に蓄えられる母体血から受け取ったシグナルに反応して、架橋構造から絨毛毛細血管内にセカンドメッセンジャーが放出されるモデルであり、神経内分泌系と酷似する。胎盤のmesenchymal stem cellsは、絨毛の血管内皮だけではなく、ニューロンとアストログリアへの分化能も有していることから、胎盤絨毛内での存在が知られているGFAP陽性細胞に注目して形態学的解析を行った。すなわち、薄切した妊娠13.5日のマウス胎盤を、抗GFAP抗体を用いて免疫染色し、共焦点レーザー顕微鏡にて観察した。その結果、母体側である絨毛間腔に面する合胞体性栄養膜および間腔内部に突出するように並ぶドット状のGFAP陽生構造物が確認された。Zスキャンおよび三次元再構築はまだ行っていないが、内腔に認められるドット状のGFAP陽生構造物は、合胞体性栄養膜から伸びる細胞質性の突起である可能性が高い。
|
今後の研究の推進方策 |
以下の項目について研究を進める。(1)組織透明化技術と、広範囲を高速で画像取得することが可能な共焦点スキャナを組み合わせた、イメージング・システムの構築を引き続き行う。(2)DiIを用いて、絨毛間腔と毛細血管を架橋する突起のトレースを試みる。すなわち、順行性標識:絨毛間腔にDiI懸濁液を注入・標識する。逆行性標識:胎児臍動脈から絨毛毛細血管にDiIを注入・標識する。(3)DiI標識した胎盤を共焦点スキャナにて観察する。標識構造物を深部まで追跡するためには組織透明化が必須であるが、現在の透明化技術では、DiIが溶出してしまうため、解析に用いることは出来ない。そこで、DiIを利用可能な透明化技術についても開発を進める。(4)母胎間シグナルリレーでは、栄養膜のgp130下流にあるJAK2/STAT3経路の活性化が、二次メッセンジャーであるACTHの放出を促す。シグナル過剰状態ではSTAT3のリン酸化はSOCS3により負の調節を受ける。gp130/JAK2/STAT3のシグナル経路が母胎間の架橋構造を介しているのであれば、SOCS3ノックアウトマウス妊娠母獣にgp130過剰刺激(炎症)状態を引き起こすことで、架橋構造に一致して、リン酸化STAT3が過剰に検出されることが期待される(5)上記方法にて架橋構造を描出することができた場合、透過型電子顕微鏡および走査型電子顕微鏡を用いた解析を行う。(6)妊娠日齢による組織構築の変化が予想されるため、より早期(マウス妊娠13日、ラット妊娠14日)から、出産前日までの胎盤についても同様の解析を行い、発生ステージによる変化を明らかにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
野生型妊娠マウスについては、実験動物販売業者より妊娠マウスを購入して研究に供する予定であったが、自家繁殖により比較的効率よく自家供給が可能となったため、これにあてる予定であった予算を繰り越すことにした。
|
次年度使用額の使用計画 |
胎盤組織の透明化プロトコールに利用可能な、蛍光抗体の購入に充てる。
|