研究課題
ほ乳類は、母体子宮内で発生・成長する。現在まで、子宮側からの圧力や胚内の組織間・細胞間で生じる力が、胚発生にどのような機能を担っているのかほとんど解析されていない。本課題では、マウスをモデル動物として、母体子宮と胚本体間や胚内の組織間・細胞間で生じる機械的力の異常が、着床障害や先天異常の発症原因となっているという仮説の検証を行う。具体的には、着床期における子宮内膜と胚の相互作用や神経管閉鎖運動において、細胞・組織間にかかる力や物理的な特性を計測することで、機械的力の異常が病態の発症要因となり得るか検討する。平成28年度は、下記の内容を明らかにした。神経管閉鎖過程で背側正中線上に出現する特有な表皮細胞の物理的特性を計測するため、神経管閉鎖に必須なGrhl3遺伝子を発現させた表皮細胞と発現していない表皮細胞について原子間力顕微鏡を用いて細胞表面のヤング率を計測した。その結果、Grhl3陽性の表皮細胞の方が陰性のそれと比べて高いヤング率を示した。更に、神経管閉鎖過程の表皮組織を対象に、ガラスマイクロピペットを用いた牽引・吸引実験を行った。結果、神経管閉鎖不全を発症するマウス変異胚の表皮組織を牽引・吸引すると、正常胚の表皮細胞に比べてより変形しやすいことが分かった。これらの結果から、より強固な表皮組織が形成されないと神経管閉鎖不全を発症することが示唆された。ライヘルト膜は、胚と子宮内膜との境界を形成している。ライヘルト膜が形成できないマウス変異胚の表現型を解析したところ、着床後2日程度で胚性致死を示していた。更に、ライヘルト膜形成不全胚では、胚本体の成長が抑えられ、胚全体が大きく変形していることが分かった。これらの結果は、子宮内膜と胚との間にかかる応力がライヘルト膜によって調整されている可能性を示唆している。
2: おおむね順調に進展している
3年間の研究計画の2年目を終えた時点であるが、上記概要に記載したように概ね研究計画に沿って研究を遂行できている。細胞間・組織間にかかる機械的力を計測することに成功し、機械的力が先天異常や着床障害の一因となっている可能性を示唆するデータを得つつある。
細胞間・組織間にかかる機械的力を計測することで、神経管閉鎖不全症候群や着床障害が発症する条件の定量化を目指していきたい。
平成27年度に遂行予定であった実験補助員による実験内容が、変更になったことによる。平成28年度については、おおよそ予定通りに使用している。
平成29年度分については、当初の研究計画通りに使用する予定である。平成27年度からの変更部分は、研究進展に伴って必要となる物品費等に使用する予定である。
すべて 2017 2016 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (1件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www.mch.pref.osaka.jp/research/embryology/index.html