研究課題
双極性障害は、統合失調症と並ぶ代表的な精神疾患であるが、その病因は未だ不明である。今回、共同研究先(スウェーデン)で採取した双極性障害患者および年齢等を合致させた健常者の脳脊髄液のメタボローム解析を実施した結果、双極性障害患者のイソクエン酸濃度が健常者と比較して有意に高い事を発見した。また、双極性障害患者の死後脳を用いた研究から、イソクエン酸(クエン酸の異性体であり、アコニターゼによりcis-アコニック酸から生成され、イソクエン酸脱水素酵素によって、α-ケトグルタル酸に代謝される)の代謝酵素イソクエン酸脱水素酵素(IDH: Isocitrate dehydrogenase)のサブタイプ(IDH3A)の遺伝子発現やタンパク発現が双極性障害患者群で減少していることを見出した。IDH3Aは細胞のミトコンドリア内にあるクエン酸回路(生体内で好気的代謝に関する最も重要な生化学反応回路である。解糖や脂肪酸のβ酸化によって生成されるアセチルCoAがこの回路に組み込まれ、ATPや電子伝達系で用いられるNADHなどが生成され、効率の良いエネルギー生産を可能にしている)に存在することから、今回の発見は、双極性障害の脳では、ミトコンドリア内のクエン酸回路のIDH3Aの減少により、イソクエン酸濃度が高くなっていると推測される。今回の研究成果は、これまで提唱されている双極性障害のミトコンドリア異常仮説を支持する重要な成果である。さらに、同患者の血清のメタボロミクス解析を実施した結果、CSF同様クエン酸回路の異常が関与していることが示唆された。以上の結果より、双極性障害患者では脳だけでなく、末梢においてもクエン酸回路の異常が関わっている可能性が示唆された。
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