本研究は、大うつ病の炎症ーキヌレニン仮説に基づき、同疾患の診断や類型化に役立つバイオマーカーとして、安定同位体でラベルしたトリプトファン(13C-トリプトファン)服用後の呼気ガス検査の有用性について検討することを目的とする。さらに、この検査が、脳内のトリプトファンやキヌレニン濃度と関連するか否かについて脳脊髄液検体を用いて明らかにすることをめざしている。呼気ガス検査当日の0時以降は絶食とし、午前10時に採血して肝機能など生化学的検査を行い、13Cで標識されたトリプトファン150mgを服用し、服用直前~180分後まで計10回継時的に呼気を回収し、赤外分光分析装置を用いて13二酸化炭素濃度を測定し、時間経過をプロットした。28年度は、27年度に引き続いてうつ病、統合失調症、健常者の被験者のデータをさらに収集し、28年度末までにうつ病18名、統合失調症15名、健常者21名のデータを収集した。その結果、13二酸化炭素濃度の排出量は、健常者と比較して、うつ病患者で有意に増加していることを確認した。しかし、統合失調症と健常者の間で有意差を認めなかった。また、13C二酸化炭素の排出量は、血漿中トリプトファン濃度と有意な負の相関を示したことから、トリプトファンーキヌレニン経路の活性化の指標となることが確認された。また、13C二酸化炭素の排出量は抗うつ薬の服用量と負の相関を示したことから、抗うつ薬はこの経路を抑制する可能性が示唆された。なお、抗精神病薬の服用量と有意な相関は認められなかった。上記の被験者のうち、うつ病12名、統合失調症14名、健常者13名から同意を得て、脳脊髄液を採取した。脳脊髄液中のキヌレニン系代謝物の測定を開始した。
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