研究課題
放射線照射後の大脳における血管消失・血管新生を詳細に解析し、血液脳関門が障害されて血管透過性の亢進した病的血管の性質を明らかにすることを目的とする。平成27年度は下記の実績が得られた。Flk1-GFP/Flt1-tdsRed BACトランスジェニックマウスの大脳皮質を二光子顕微鏡により観察することで、血管内皮細胞における血管内皮細胞増殖因子VEGFの受容体VEGFR1およびVEGFR2の発現度合いを反映した脳血管を明瞭にライブ観察できることを確認した。野生型マウスに放射線を全脳照射(60Gy、単回照射)して血管内皮細胞の増殖低下やアポトーシスによる血管密度の変化を解析した。放射線照射マウスの大脳の凍結切片を用いたTUNEL染色により、照射0.5日後には脳微小血管内皮細胞のアポトーシスが認められた。血管密度は照射1日後には対照(未照射)群に比べて低下したが、照射7日後には対照群と同程度まで回復した。血管透過性を評価するため、放射線照射後のマウスにエバンスブルーを投与して脳血管からの漏出を解析した。照射0.5日、1日後のエバンスブルーの漏出は対照群に比べて有意な変化を認めなかったが、照射7日、14日後には対照群の5倍程度の漏出が認められ、血管透過性が亢進していることを確認した。放射線照射後の大脳における血管消失・血管新生は照射後の比較的早い時期に認められる現象であり、新生血管は透過性が亢進した病的状態であることが示唆された。また、放射線照射後のマウス大脳においてミクログリアの活性化が認められたことから、放射線照射後の大脳における血管消失・血管新生を明らかにする上で活性型ミクログリアから分泌される炎症性因子による効果を考慮すべきであることが示唆された。
3: やや遅れている
本来であれば、Flk1-GFP/Flt1-tdsRed BACトランスジェニックマウスに放射線を照射し、照射後のマウス大脳皮質における病的血管を二光子顕微鏡によりライブ観察する予定であった。しかしながら、トランスジェニックマウスの繁殖効率が予想以上に悪く、解析に要する十分な個体数を確保できず、これを用いた実験を計画したペースで進めることができなかった。それ故、当初の予定より実験が遅れた。
Flk1-GFP/Flt1-tdsRed BACトランスジェニックマウスを用いて、放射線照射後のマウス大脳皮質の血管消失・血管新生を二光子顕微鏡によりライブ観察する。VEGFR2(GFP)を高発現する血管内皮細胞とVEGFR1(DsRed)を高発現する血管内皮細胞について、血管新生イベントにおけるこれら細胞の形態、存在割合、分布、運動性などを解析する。コントロールと比較して、放射線照射後にみられる病的血管新生における血管内皮細胞の動態を明らかにする。血管内皮細胞におけるVEGFR1/VEGFR2の発現の消長を解析し、病的血管新生におけるこれらの受容体の役割について考察する。放射線照射したマウス(野生型およびトランスジェニック)大脳における血管新生関連因子について組織化学解析、遺伝子発現解析、タンパク発現解析を行う。また、ミクログリア活性化阻害薬であるミノサイクリンをマウスに投与した時の放射線照射後の大脳における血管消失・血管新生を解析する。これらの結果から、病的血管新生の分子メカニズムについての知見を得る。
実験に供するトランスジェニックマウスの繁殖効率が予想以上に悪く、年度末近くまで十分な個体数を確保できなかった。このため、動物の繁殖に関わる経費(動物実験施設利用料)およびトランスジェニックマウスを用いた実験に関わる経費が当初の見積額よりも低額となり、次年度使用額が生じた。
実験に供するトランスジェニックマウスの十分な個体数を得るために、当初の計画よりもやや多めに個体数を維持することとし、これに関わる経費(動物実験施設利用料)として使用する。また、平成27年度の研究により示唆された放射線照射後の大脳における炎症性ミクログリアからの分泌因子が病的血管新生へ与える影響を検討するための試薬(抗体、生化学実験試薬、遺伝子実験試薬など)の経費として使用する。
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PLOS ONE
巻: 11 ページ: e0150262
10.1371/journal.pone.0150262
Journal of Neurochemistry
巻: 135 ページ: 539-550
10.1111/jnc.13262