研究実績の概要 |
放射線増感作用が期待されるいくつかの候補の薬剤のなかから、MEK 経路に着目した。RAS/RAF/MEK/ERK経路は、BRAF, RAS mutationを含む様々な癌腫において過剰発現しており、MEK 阻害剤は抗がん作用をもつ新規分子標的薬として注目されている薬剤の一つである。今回、対象として膵癌由来の細胞に注目した。膵癌細胞MIA PACA-2に対し、放射線照射にMEK 阻害を行うことにより、放射線照射単独と比して、細胞の生存はさらに抑制されることが分かった。しかしながら、低酸素下の条件においては、放射線照射にMEK経路を阻害することで、放射線の増感効果を呈しなくなった。現在このような現象が起こった原因について検索中である。 また、もう一つの経路として、ソニックヘッジホッグ(SHH)経路に注目した。がんの間質繊維芽細胞の増殖をソニックヘッジホッグ経路が促進することが最近注目されている。膵臓癌は、化学放射線治療に抵抗性の難治性の癌であり、がん間質線維芽細胞に富むことが注目されている。豊富な間質線維芽細胞は放射線抵抗性に関わってくることが分かってきている。そこで、膵癌においてヘッジホッグ経路が間質豊富な微小環境にどのような影響を与えるのかについて明らかにすることを目的とした。SHH依存的に細胞増殖が起きるかどうかを調べるため、あるSHH阻害剤を用いて、細胞増殖がSHH経路を介するかどうかを評価した。同阻害剤が、SHHの精製タンパク質による細胞増殖を濃度依存的に部分的に抑制していることを確認し、SHHタンパク質が、線維芽細胞の増殖を、ソニックヘッジホッグ経路依存的に促進していることが示唆された。このように、SHH経路を阻害することによって、線維芽細胞の増殖を抑制すれば、放射線療法の増感を期待することも可能となる。
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