まず、60Gyを30分割で照射することで、放射線耐性株をHeLa、CaSki、 ME-180で樹立することに成功した。他の細胞株も作成を試みたものの、成功したのはこれらのみであった。ZEB1の遺伝子発現については、HeLaでは放射線耐性株は親株に比べ、発現量に差がなかった。CaSkiでは耐性株が親株に比べて有意に発現が高かったのに対して、ME180では耐性株が親株に対して有意に発現が低かった。したがって、当初考えていた放射線耐性株ではZEB1の遺伝子発現が高いのではないかという仮説は、違うということがわかった。miR-200cの発現については、HeLaでは耐性株は親株に比べ有意に発現が低下した。CaSkiでは、耐性株は親株に比べ有意に発現量が上昇した。ME180では、耐性株は親株に比べ有意に発現量が低下した。したがって、これについても当初考えていた放射線耐性株でmiR200cが低いという仮説は、違っていたことがわかった。放射線耐性株での癌幹細胞性が上がるか、についてはスフェアフォーメーションアッセイを行い、放射線耐性株で有意にスフェア系性能が高いことがわかった。したがって、放射線耐性株において癌幹細胞らしさは強くなることは明らかであった。また、ZEB1の放射線感受性への関わりを確認するために強制発現株の作成を試みたものの、薬剤選択後の(ZEB1強制発現されているはずの)細胞株でZEB1の発現亢進がみられず、当初予定していたZEB1強制発現細胞株での放射線感受性変化を見ることができなかった。 本研究によって、放射線治療による癌細胞の癌幹細胞様細胞へのリプログラミングは、in vitroの実験で現象としては確かに起こることが示されたが、それには当初想定していたZEB1やmiR-200cはあまり重要な働きをしていないことがわかった。
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