研究課題/領域番号 |
15K15459
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研究機関 | 京都薬科大学 |
研究代表者 |
河嶋 秀和 京都薬科大学, 薬学部, 准教授 (70359438)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 炎症 / マクロファージ / プリン受容体 / 放射線 / 分子イメージング |
研究実績の概要 |
炎症性組織に集積したマクロファージ様細胞には、プリン受容体(P2Y6サブタイプ)が高密度に発現することが報告されている。本研究の目的は、P2Y6受容体を標的とした新規放射性分子プローブを開発し、新たな視点に基づく炎症性疾患の病態解明を試みることにある。平成28年度は、目的とするプローブの母体化合物を複数候補として検討するとともに、それらの放射性同位元素による標識に向けた非放射性化合物の合成を進めた。 P2Y6受容体のアゴニストとして、uridine diphosphate(UDP)が報告されている。そこで、まずUDPを母核とすることを考え、受容体親和性が保存されるuridine骨格C5位に放射性ヨウ素を導入した化合物([125I]5-I-UDP)の合成を試みた。すなわち、N-iodosuccinimide(NIS)を用いる求電子置換反応に基づいたuridineから5-iodouridineの合成に続き、リン酸基を伸長する経路を定量的に検討した。しかし、本反応は全4工程にわたる反応収率が低く、反応時間も精製を含めて数時間を要したことから、さらなる条件検討が必要であると考えられた。一方、P2Y6受容体に親和性を有する化合物としてUDPとは全く構造の異なるthiourea誘導体も存在することから、平成28年度は、これらの化合物に対する放射性ヨウ素、あるいは適当な配位子を介した放射性金属核種の導入の可能性を探索し、その分子設計を行った。 今後は、まずUDP誘導体に関しては研究実施施設における[125I]NISの合成系を確立させ、[125I]5-I-UDPの高収率合成を達成する。さらに新たに検討を開始した化合物も評価に加え、P2Y6受容体発現細胞を用いたin vitro実験およびモデル動物を用いたex vivo実験を実施し、炎症性組織の評価に関する知見を得る計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
P2Y6プリン受容体は炎症性組織に集積するマクロファージ様細胞においてphagocytosisへの関与が報告されている。そこで、本受容体を標的とした炎症性病変の診断に資する新規放射性分子プローブの創製を検討した。まず、平成27年度から継続し、uridine誘導体である[125I]5-I-UDPについては、分子内にリン酸基を有するUDP二ナトリウムを出発原料に用いた場合、ヨウ素カチオンによる求電子置換反応が効率的に進行しないという知見を確認した。その上で、直接的にUDPのuridine骨格C5位へヨウ素を導入して5-iodouridineを作製し、さらにそのC5’位の水酸基にリン酸基を伸長させるという5-I-UDPの合成経路を検討した。N-chlorosuccinimide(NCS)/NaIを混合したIonic Liquid中でuridineを作用させ、反応混合液中にリン酸化試薬を順次添加するという方法を試みたが、逆相系HPLCによる精製を含めた合成時間が約4時間であり、収量も低かったため、現在、リン酸伸長に関する試薬の選択を含めた条件の最適化を行っている。さらに、isothiocyanatophenyl基を有するthiourea誘導体に対しても、ヨウ素導入や金属核種とのキレート形成を達成するための分子設計ならびに合成を開始した。 一方、プローブの評価(腫瘍関連マクロファージを対象とする)に用いるための腫瘍細胞については平成27年度の癌細胞株に加えてヒト前立腺癌由来細胞株LNCaPやヒトグリオーマ由来細胞株U87細胞を培養し、細胞膜画分の調製法と担癌モデル作製手技を修得した。 以上、複数の化合物の合成につき一定の成果は得られたものの、in vitro、ex vivo系での評価は充分に達成できなかったため、評価は「やや遅れている」とした。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度は本研究の最終年度であることから、現在作製中の化合物について放射性同位元素標識体を速やかに合成した上で、順次P2Y6受容体イメージングプローブとしての評価を進める。まず、[125I]5-I-UDPについてはその効率的な合成法を確立させた後、本化合物のP2Y6受容体への親和性を数値化する。すなわち、P2Y6受容体発現ヒトastrocytoma細胞株を用いたin vitro細胞内取込み実験を実施することで受容体結合特性を求める。また、thiourea誘導体についても同様に放射性ヨウ素あるいは放射性金属核種にて標識したものを合成し、同様の評価を試みる。一方、これらの結果から選出した候補化合物については、BALB/c (nu/nu)等の免疫不全マウスに複数の腫瘍細胞を接種することで作製した担癌モデル動物でex vivo実験を行う。ここでは、放射性プローブを動物に尾静脈から投与し、臓器摘出法を用いて体内動態を経時的に定量解析するとともに、作製した組織切片標本のオートラジオグラフィを作製することで、腫瘍近傍に存在する炎症性組織おける放射能の分布を画像上にて評価する。組織切片は免疫組織化学染色を施し、P2Y6受容体を発現したマクロファージ様細胞の分布と比較する。さらに抗腫瘍薬や抗炎症薬をモデル動物に投与し、非治療群と比較した治療群における生体の応答と放射能集積との一致を検証する。 一方、本研究課題では末梢性のマクロファージ様細胞とともに、アルツハイマー型認知症やパーキンソン病などの神経変性疾患、あるいは脳血管病変等、広範な脳機能障害に付随する炎症において活性化を認める、貪食性ミクログリアも定量評価の対象に考えている。こちらに関しては、脂溶性の側面から血液脳関門透過性が期待できるthiourea骨格を有する化合物に焦点を当て、その可能性を探る。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請者は平成27年度中に北海道医療大学医療大学から京都薬科大学へと異動し、研究を実施する施設の環境整備に時間を要した。このため、主に合成に関する実験に遅れが生じ、関連する試薬の購入が当初の予定よりも少なかったことに伴い次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
研究内容に変更が生じた訳ではないので、当該助成金の使用については当初の予定通り、薬品や細胞、動物などに充てる計画である。
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