炎症性組織において貪食能を獲得したマクロファージ様の細胞では、細胞膜表面にプリン受容体(P2Y6サブタイプ)が高発現している。当該研究で、研究代表者はP2Y6受容体を標的とした新規放射性分子プローブの開発と、炎症性疾患の病態解明に向けたアプローチを試みた。最終年度である平成29年度は、目的とする放射性分子プローブの標識合成と、炎症モデル動物を用いた評価を行った。 P2Y6受容体のアゴニストであるuridine diphosphate(UDP)の構造活性相関に関する考察に基づき、受容体親和性が保存されると予想したuridine骨格C5位に放射性ヨウ素を導入した。まず、I-125標識N-iodosuccinimide([125I]NIS)を用いる求電子置換反応によりuridineから[125I]5-iodouridineを合成し、さらにリン酸基を伸長させるという合成経路を選択した。固相抽出法による精製後に目的化合物([125I]5-I-UDP)を得た。一方、モデル動物としてはテレピン油の皮下投与により炎症誘発マウスを作製し、組織にP2Y6受容体が発現していることを免疫組織化学染色で確認した。モデルマウスに[125I]5-I-UDPを静脈内投与し、30分後に組織を摘出してガンマカウンターで測定した結果、炎症性病変部位には健常側と比較して1.6倍の放射能集積を認めた。 当該研究では炎症イメージングプローブ開発の基盤技術として[125I]5-I-UDPの有用性に関する一定の知見を得たが、合成収率が低く、また設備の問題で高い放射化学的純度が得られなかったため、十分な成果を収めるには至らなかった。今後、UDPの直接標識を含めた合成経路の再検討を進め、収率および純度の向上を図ることで、より精度の高いデータの取得へと繋げる。
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