本研究の目的は、がんの転移に関与する分子を核医学イメージングする技術を構築することを目指し、腫瘍に特異的に発現し、腫瘍の組織浸潤性、その結果として起こる転移に重要な役割を果たしている酵素、ヘパラナーゼを分子標的とした放射性薬剤を開発することである。前年度において、ヘパラナーゼの選択的阻害剤であるOGT2115を基盤に、シンナミル基のベンゼン環上のBr基に放射性ヨウ素を導入した[I-125]1の設計・合成を行った。一方、OGT2115の中央のベンゼン環の3位にF基を導入することにより、ヘパラナーゼ阻害活性に加えて、血管新生阻害活性が増大することが報告されている。そこで、本年度では、中央のベンゼン環の3位にF基を導入した放射性ヨウ素化合物[I-125]2を設計した。合成は、[I-125]1とほぼ同様に、トリブチルスズ体を標識前駆体としたスズ―ヨウ素交換反応により[I-125]2を放射化学的収率46%、放射化学的純度99%以上で得ることに成功した。次に、ヘパラナーゼ阻害活性について評価したところ、1および2はこれまでにヘパラナーゼの選択的阻害剤として報告されている化合物と比べてほぼ同等のIC50を示し、シンナミル基のベンゼン環上にI基を導入してもヘパラナーゼ阻害活性に影響がないことがわかった。さらに、[I-125]1の細胞集積性、安定性、健常マウスにおける体内動態を検討したところ、[I-125]1は注射液中において高い安定性を示し、ヘパラナーゼ発現量に依存して細胞に集積するとともに、良好な体内動態が得られた。以上、[I-125]1は腫瘍の質的診断を可能とする放射性薬剤としての基礎的条件を備えていることが明らかとなった。今後、 [I-125]2についても基礎データを集めるとともに、癌細胞を用いた浸潤阻害活性評価、担癌マウスにおける体内分布評価を行い、イメージング剤としての評価の検討を行っていく。
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