研究課題/領域番号 |
15K15463
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研究機関 | 広島国際大学 |
研究代表者 |
笠岡 敏 広島国際大学, 薬学部, 准教授 (90338690)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | BNCT / リポソーム / 細胞透過性ペプチド |
研究実績の概要 |
前年度調製したボロンハイブリッドリポソームを用いて、大きく分けて二種の実験を行った。第一の実験として、DMPCをベースとした流動性の高いボロンハイブリッドリポソームを用いて、ヒト繊維芽細胞とマウスメラノーマ細胞の二種において、細胞への取り込み効率の違いが見られるか否かを検討した。In vitroにおける蛍光観察によって、細胞流動性の高いマウスメラノーマ細胞に高い取り込みが観察された。一方、膜流動性が低い繊維芽細胞において取り込みは低く、リガンドを介さない膜流動性感受性が認められた。現在、細胞内ボロン量を測定中である。第二の実験として、主構成脂質として相転移温度が56℃と高いDSPCを用いて、「硬い」ハイブリッドリポソームを調製し、さらにミセル移行法を併用することで、細胞透過性ペプチドをリポソームに導入した。この細胞透過性ペプチドを介した細胞内取り込みをICP-AESで検討したところ、特に腫瘍標的型のBR2ペプチドを用いた場合で、BSH溶液群と比較して23倍以上のボロンの細胞内取り込みがみられた。また、腫瘍非選択性ペプチドのTATを結合したリポソームと比較しても、T/N比は有意に高値となっており、細胞透過性ペプチドのベースキャリアとしてハイブリッドリポソームが有用であることが確認された。 これら2種のリポソームは4℃で緩衝液中での安定性は高いことが示されたが、血清中では6 hで20%以下の漏出がみられ、今後、DMPEをベースとしたボロン脂質を混合することで、保持効率を改善させる予定である。また、この漏れ出たボロン脂質が全細胞に非選択的に取り込まれている可能性が考えられるため、この点を改善することで、T/N比をさらに上げることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
当初の予定では、本年度にin vitroにおける中性子照射実験を終える予定であったが、予定されていた京大原子炉の再稼働が大幅に延期され、2016年度中の再稼働が不可能となった。このため、中性子照射が行えず、BCNTによる腫瘍の殺細胞効果を確認することができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
現在、ハイブリッドリポソームをボロンのキャリアとして用い、大きく二種のリポソームを開発している。一つ目は、膜流動性に対する感受性のみを用いた膜流動性感受型ハイブリッドリポソームであり、二つ目は腫瘍標的型細胞透過性ペプチドを結合させた細胞透過性ペプチド結合形ハイブリッドリポソームである。この二種のリポソームを8月までにさらに安定性等について改良し、9月以降に見込まれる京大原子炉の再稼働に備える予定である。具体的には、1本鎖ボロン脂質と2本鎖ボロン差脂質の混合比をコントロールすることで、リポソーム膜の流動性とボロン保持効率を最適化し、より高いT/N比を実現できるよう鋭意検討する予定である。再稼働の後に、本年度予定していた、in vitroにおけるメラノーマ細胞と正常繊維芽細胞に対する中性子量に依存した殺細胞効果を検討する予定である。2017年度に割り当てられるマシンタイムが未知数なので、現時点では、このin vitroにおけるBNCT効果を検討し(9~11月)、12~1月にin vivoにおける抗腫瘍効果を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
原子炉再稼働延期に伴い、中性子照射実験に伴う費用が発生しなかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
金額が1273円と大きくないことから、次年度に予定されるリポソームの脂質費等に追加して用いる予定である。
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