本研究では架橋剤を介して、アルキル鎖または脂質にBSHに結合させたODA-BSHとDMPE-BSHを合成した。これらのボロン化合物を膜流動感受性ボロンリポソーム(MFSBLs)の構成脂質として用い、ODA-BSHとDMPE-BSHの混合比を5:0、4:1、3:2とした3種類のMFSBLsを調製した。ボロン封入率において、混合比4:1のMFSBLsが最も高い封入率を示した。各種FITC標識MFSBLsの取り込みにおいて、B16F10 メラノーマ細胞に対して5:0及び4:1のMFSBLsは高い蛍光が観察され、一方、繊維芽細胞ではほとんど蛍光が観察されず、腫瘍細胞選択性が認められた。この腫瘍選択性については、ICP-AESによる細胞内ボロン濃度測定でも同様の結果が得られた。これらのボロン封入率、細胞毒性試験、蛍光及びボロン取り込み実験の結果より、ODA-BSH:DMPE-BSHの混合比を最終的に4:1とした。MFSBLsは4℃の緩衝液中での保存においても、95%のボロンを保持しており高い安定性が確認された。 次にB16F10マウスメラノーマ細胞またはヒト繊維芽細胞に、MFSBLsをボロン濃度として2.5~10.0ppm添加し、24 hインキュベートした後に、熱中性子を1.8×10^12フルエンス/cm2照射した。B16F10マウスメラノーマ細胞における、ポジティブコントロールに用いた5 ppmのBSH水溶液の細胞生存率は84.5%であったのに対して、5 ppmで添加したMFSBLsの細胞生存率は0%であり、2.5 ppmにおいても細胞生存率が0%であった。これらの結果から、臨床に用いられているBSH水溶液と比較して、MFSBLsは極めて高い抗腫瘍効果が認められた。一般的にBNCTにおけるボロン製剤には腫瘍細胞内ボロン濃度が10~40 ppm であることが求められているが、MFSBLsでは2.5~5 ppmの低濃度のインキュベート後における中性子照射でも高い殺細胞効果を有していた。
|