本研究では脳梗塞初期における新規の生体イメージング技術による診断法の開発をするために、動物基礎研究を行った。昨年度は、脳梗塞モデル動物である脳虚血-再灌流モデルラットの障害側におけるフッ素18で標識したフルオロ酢酸([18F]FACE)の集積について陽電子断層撮影(PET)を行った結果、脳虚血時における障害領域の[18F]FACEの集積が反対健常側よりも2.5倍多く集積した。以前では[18F]FACEの体内動態は酢酸と同様と考えられてきたが、炭素11で標識した酢酸([11C]acetate)による実験結果から脳虚血時では[11C]acetateの障害領域への集積は健常側に比較して低下しており、異なる結果であった。今年度は、虚血中における障害領域における[18F]FACEの代謝物解析を行った結果、対照の[11C]acetateでは虚血障害領域において代謝されたのに対し、[18F]FACEは代謝されず、予想していたフルオロクエン酸への代謝は確認されなかった。また、細胞内分布では細胞質に95%以上貯留しており、代謝部位であるミトコンドリアへの分布はわずか2%であった。加えて、酢酸の輸送体であるモノカルボン酸トランスポータの阻害剤を前処置し、虚血側における[18F]FACEの集積変化をPETで調べたが、変化は認められなかった。PETによる動態解析から血液から組織内への流入速度(K1)は障害側と健常側との間に有意な差は認められなかったが、組織から血液への流出速度(k2)では障害側が健常側に比べて有意な低下を示した。これらの事から、障害側での[18F]FACEの集積は酢酸代謝とは明らかに異なるものであり、細胞質中におけるFACEの未知の機能が推測される。
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