研究課題/領域番号 |
15K15471
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
永橋 昌幸 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (30743918)
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研究分担者 |
西條 康夫 新潟大学, 医歯学系, 教授 (10270828)
小山 諭 新潟大学, 医歯学系, 教授 (10323966)
小杉 伸一 新潟大学, 医歯学総合病院, 特任教授 (90401736)
小林 隆 新潟大学, 医歯学総合病院, 講師 (40464010)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 脂質メディエーター / スフィンゴシン-1-リン酸 / スフィンゴシンキナーゼ / 癌代謝 / メタボローム |
研究実績の概要 |
申請者らは、脂質メディエーターであるスフィンゴシン-1-リン酸(S1P)と、S1Pの産生酵素であるスフィンゴシンキナーゼ1型(SphK1)とが癌の浸潤、転移に重要な役割を果たしていることをこれまでに報告してきた。さらに最近、正常肝細胞において、核内のS1Pとスフィンゴシンキナーゼ2型(SphK2)とが脂質・糖代謝を制御していることを発見した。しかし、S1Pおよび2つの異なるスフィンゴシンキナーゼの癌代謝動態における働きはいまだ不明である。本研究の目的は「脂質メディエーターによって制御される癌代謝動態の分子機構を明らかにし、その臨床的意義を明らかにすること」である。平成27年度は、遺伝子編集ツールであるCRISPR/Cas9システムを用いて、SphK1およびSphK2のノックアウト細胞を乳癌および膵癌の細胞株で確立した。これによって、癌細胞の増殖能、遊走能、生存能などにおけるSphK1およびSphK2の細胞機能における働きを細胞実験で検証することが可能となった。さらに、これらの細胞株を用いて抗癌剤を用いた実験を行うことにより、各種抗癌剤に対する耐性能におけるSphK1およびSphK2の働きを検証できる。また、手術検体を用いた臨床研究では乳癌手術症例47例を対象とした研究を行い、ホルマリン固定標本並びに凍結組織標本を用いて、スフィンゴシンキナーゼの発現や活性化、組織中S1P濃度を分析し、患者の臨床病理学的データとの関連について解析を行った。その結果、組織のSphK1の発現とS1P濃度は相関すること、乳癌のサブタイプによってS1P濃度が異なること、S1P濃度が高いとリンパ節転移の頻度が高くなることなどを発見した。本臨床研究の結果を国際学会で発表し、専門科学雑誌に現在投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度は主に課題研究AとCについて研究を行い、計画通りに進行している。以下に進捗状況の詳細を記載する。 課題研究A 癌代謝動態における2つのスフィンゴシンキナーゼの役割:4T1乳癌細胞SphK1KO細胞について、細胞株のメタボローム解析を行い、得られたデータをバイオインフォマティクスにより解析し、SphK1が関与すると考えられる癌代謝経路を見出した。ゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9を用いて、2つの異なるS1P産生責任酵素であるスフィンゴシンキナーゼ1型(SphK1)と2型(SphK2)を各々ノックアウト(KO)したE0771マウス乳癌細胞株、PAN02マウス膵癌細胞株を樹立した。また、ヒト癌細胞に対するCRISPR/Cas9を用いたSphK1とSphK2のKOシステムも確立した。これにより、MDA-MB-231などヒト乳癌細胞においてもSphK1KOおよびSphK2KO細胞の作製が可能となった。また、課題研究Bとして、課題Aで作成した細胞株を用いて、スフィンゴシンキナーゼとS1Pとにより制御される癌代謝動態と抗癌剤耐性との関連について、各種抗癌剤における耐性能を実験検証する。 課題研究C スフィンゴシンキナーゼおよびS1Pの臨床的意義:乳癌手術症例47例について、凍結組織標本・ホルマリン固定標本を用いて、スフィンゴシンキナーゼの発現や活性化、組織中S1P濃度を分析し、患者の臨床病理学的データとの関連について検証した。結果、組織のSphK1の発現とS1P濃度は相関すること、乳癌のサブタイプによってS1P濃度が異なること、S1P濃度が高いとリンパ節転移の頻度が高くなることなどを発見した。本臨床研究の結果を国際学会で発表し、専門科学雑誌に現在投稿中である。現在、さらに50症例の追加解析を行い、血液中のS1Pの臨床的意義についても検証中である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度は主に課題研究AとCについて研究を継続し、課題研究Bについても研究を開始する。 課題研究A 癌代謝動態における2つのスフィンゴシンキナーゼの役割:ゲノム編集ツールであるCRISPR/Cas9を用いて、作成したSphK1・SphK2KO細胞株(E0771、PAN02)を用いて、細胞機能におけるSphK1およびSphK2の役割について解析を進めるとともに、4T1乳癌細胞株を用いて行ったメタボローム解析の結果を踏まえて、癌代謝におけるSphK1およびSphK2の役割について、qPCRを用いて主要な代謝酵素の変化について解析実験を行う。MDA-MB-231などのヒトの乳癌細胞株でもSphK1およびSphK2のノックアウト細胞を樹立し、同様の実験を行う予定である。 課題研究B スフィンゴシンキナーゼとS1Pとにより制御される癌代謝動態と抗癌剤耐性との関連:課題Aで作成した細胞株を用いて、スフィンゴシンキナーゼとS1Pとにより制御される癌代謝動態と抗癌剤耐性との関連について、各種抗癌剤における耐性能を調べる研究を推進する。 課題研究C スフィンゴシンキナーゼおよびS1Pの臨床的意義:既に論文投稿中の乳癌手術症例47例の結果に加えて、さらに追加解析症例50例に関して、凍結組織標本・ホルマリン固定標本に加えて、血液検体を用いて、スフィンゴシンキナーゼの発現や活性化、組織中S1P濃度、S1P受容体およびS1P輸送体の発現レベルを分析し、患者の臨床病理学的データ、薬剤感受性、治療成績との関連について検証する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入等の納品検収は平成27年度内に完了したが、支払が4月となり次年度となったため。
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次年度使用額の使用計画 |
物品購入等の納品検収は平成27年度に完了し、支払は4月に完了している。
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