研究課題/領域番号 |
15K15472
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研究機関 | 愛知医科大学 |
研究代表者 |
小林 孝彰 愛知医科大学, 医学部, 教授 (70314010)
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研究分担者 |
岩崎 研太 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (10508881)
大西 彰 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (30414890)
三輪 祐子 愛知医科大学, 医学部, その他 (90572941)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 移植・再生医療 / 遺伝子 / ABO不適合 / HLA抗体 / 腎移植 / モデルブタ |
研究実績の概要 |
現在の移植医療は、ドナーに反応する抗体が問題となる。ABO血液型不適合移植(糖鎖A/B抗原に対する抗体)、クロスマッチ陽性移植(ペプチドHLAに対する抗体)があり、予後が大きく異なる。 抗体の種類により、有害な抗体、無害な抗体、保護作用のある有益な抗体と分類でき、詳細な解析により診断、治療に応用できる可能性がある。 ABO血液型不適合HLA抗体陽性移植モデルブタの開発するために、同品種二系統の(SLA: Swine Leukocyte Antigen)を遺伝的背景にもつブタに、遺伝子導入により血液型(A/B型)を内皮細胞に発現したクローンブタの作出を試みている。遺伝子導入のため、フコース転移酵素(FUT2)および、A型抗原転移酵素遺伝子を含むpCDNA、pCAGGSベクターを作成した。上記のニ系統ブタのFibroblastに遺伝子導入を行っている。 臨床検体(保存血清、グラフト生検組織)を用いた解析を行った結果、 急性抗体関連型拒絶反応のリスク因子として、A不適合では抗A抗体のtotal IgG、IgG2が高い症例、B不適合では、抗B抗体のTotal IgG, IgG1, IgG3そしてC1q結合能の高い症例が認められた。同じ自然抗体であっても抗A抗体と抗B抗体には、抗体の質に何らか違いがあることが示唆された。慢性抗体関連型拒絶反応では、逆に有意差はないもののA不適合では抗体価(とくにIgG2)の低い症例で関連が認められた。腎生検でのグラフトA/B発現レベルと拒絶反応との関連はみとめられなかった。マイクロアレイ解析は継続中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ほぼ順調に成果が得られており、計画は予定通り進行していると考える。クローンブタの作出には時間がかかるので、平成28年度内でのモデルブタ作出は困難かもしれないが、ベクターの準備は整っており核移植用の細胞を入手できれば、すぐに遺伝子改変は可能である。また、in vitroでの研究として、A/B抗体とHLA 抗体の内皮細胞に対する反応性の違いを、様々な角度から解析に成功した。とくに、臨床検体を用いた解析により、IgGサブクラス、補体結合能が臨床事象(抗体関連型拒絶反応)に影響することを明らかにした。in vitro実験結果の妥当性、整合性も明確にできた。よって、本研究の方向性を修正することなく、最終年度に向けて、効率的な研究を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
得られた成果を基盤にして、最終年度となるH28年度は、ABO不適合、SLA不適合クローンブタの作出をめざす。卓越した技術、十分な経験を持つ、つくば農業生物資源研究所、日本大学の協力の下で実施する。 In vitro実験では、A/B抗体産生、HLA抗体産生形質細胞ハイブリドーマ(形質転換B細胞)を用い、IgG4型のキメラ抗体を作成することで、抗体関連型拒絶反応の治療の可能性を探る。 移植後の腎生検組織を利用し、(i) ABO血液型不適合、(ii)抗ドナーHLA抗体産生・拒絶反応(-)症例、(iii)潜在的な慢性抗体関連型拒絶反応症例を比較し、microarray解析(mRNA, miRNA)を行い、抗体接着、補体接着との関連因子、予後を規定する因子を同定する。また、シグナル伝達経路の解析も追加する。今までのin vitro実験で得られた結果と比較検討する。 私どもが開発したA/B抗原発現血管内皮細胞を用いて、抗体の機能評価および有害、無害、有益抗体の詳細な解析を行う。補体、凝固の変化、HLAクラス1、2発現変化、補体制御因子や細胞保護因子の発現変化、炎症細胞との相互作用、 mRNA, miRNAの変化、シグナル伝達解析を行う。 さらに、抗 A/B抗体を産生するハイブリドーマ細胞を用いて、RNA干渉による抗体抑制効果を確認する。抗体のグラフト接着後に作用する機能の多様性を解析することにより、有益抗体の接着を促進し、有害抗体の産生を抑制する新しい抗体制御戦略の可能性を探索する。これは、画期的な抗体療法の開発につながる重要な研究となると考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究の進捗状況は良好である。研究に利用する消耗品の一部に予備があったため、年度内に購入する必要がなくなった。そのため、614,039円を繰り越すことになった。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度である平成28年度は、効率的に研究を推進するために、予定通り物品費、成果発表・情報収集のための国際・国内学会、研究分担者との研究打ち合わせ会議、論文作成・投稿費用にあてる。
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