研究課題
肝癌に対する治癒切除後に認められたKIR/HLA genotype多型の再発リスクに対するインパクトが、肝移植後の再発危険因子と関連するか否かを解析した(n=76)。すなわち、ドナーおよびレシピエントの各KIRの遺伝子レベルのコーディングの有無と、HLA class IのA3/11アレル、Bw4 エピトープの保有およびC遺伝子座におけるC1/C2ハプロタイプの分類を遺伝子タイピングにより判定し、KIR/HLA genotype多型と原発巣治癒切除後の再発率との関係を解析した。その結果、ドナーHLAとレシピエントKIRの適合する組み合わせが3個以上存在する個体で、肝癌の再発率が有意に高いことが判明し、移植グラフとに発現するHLA class Iを認識したNK細胞が抑制性の機能制御を受ける可能性が示唆された。マウスモデルを用いた研究では、HSP70 inducerによるNK細胞の賦活化の可能性を検討した。C57BL/6J HSP-70.1 knock-out (KO)マウスを用い、NK細胞のTRAIL分子の誘導にHSP-70が関連するか否かを解析した。また、wild-typeマウスにHSP70 inducer(celastrol)を投与して、NK細胞の賦活化の可能性を解析した。その結果、NK細胞のTRAIL分子の誘導にHSP70分子の存在は必須ではなかった。Histone deacetylase inhibitor (HDACi)やDNA-methyl tranferase inhibitor (DNMTi)は、ヒト肝癌/大腸癌株(HepG2、Huh-7、DLD-1、HCT116、LoVo)のNKG2D-ligandやDNAM-1-ligandの表出を促進しすることをin vitroで確認をした。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、NK細胞の遺伝学的脆弱性を克服することを目的として、NK細胞の分化・成熟・活性化に即した免疫賦活化あるいは養子免疫療法を開発する。マウスモデルを用いた研究では、最近の我々の実績を基盤として、heat shock protein (HSP)70 inducerによるNK細胞活性化の可能性を検討した。ヒトリンパ球および臨床検体を用いた解析では、エピジェネティックドラッグによる腫瘍修飾およびNK細胞活性への影響を解明した。臨床研究では、肝癌に対する治癒切除後に認められたKIR/HLA genotype多型の再発リスクに対するインパクトが、肝移植後の再発危険因子と関連するか否かを解析した。KIR/HLA genotypeの再発への影響が、大腸癌と胃癌およびその肝転移においても関連するか否かは現在解明中である。
癌糖鎖抗体による抗体依存性細胞傷害(ADCC)におけるNK細胞活性化機構を解明する。ある種の固形癌は異好性抗原として糖脂質(N-グリコリル型シアル酸: NeuGc)を表出し、癌抗原として標的に成り得る。最近我々は、NeuGc抗原がヒト自然抗体やB細胞の標的となり免疫応答が誘導されることを報告した。癌細胞上(Hepa1-6、MH22A、CMT-93)のNeuGc抗原が抗体の標的となって惹起されるADCCにおけるNK細胞の役割を、NeuGc抗原の表出を欠損したCMP-NeuAc水酸化酵素ノックアウト(CMAH-/-)マウスを用いて解析する。CMAH-/-とNK gene complex (NKC) ノックダウン(NKCKD)マウスを交配し、Ly49-MHC class Iシグナルを介したNK細胞のlicensingが欠落した状態を再現し、ADCCにおけるlicensed およびunlicensed NK細胞の抗腫瘍活性を解析する。我々は、ヒト骨髄あるいは末梢血CD34+造血幹細胞からNK細胞を誘導することに成功したが、NKG2D,TRAIL, DNAM-1分子を表出したunlicensed様フェノタイプを示すことが確認された。ここでは、KIRと親和性のあるHLA Class I分子の表出したフィーダー細胞(繊維芽細胞)と共培養することで、KIRの発現とlicensingの誘導が成し得るか否かを検討する。以上の研究は、平成28年度の研究計画としてあげていたもので、当初の予定どおり施行する。
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