研究課題/領域番号 |
15K15482
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
森田 直樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生物プロセス研究部門, 研究グループ長 (60371085)
|
研究分担者 |
芳賀 早苗 北海道大学, 保健科学研究院, 博士研究員 (60706505)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 膵癌 / 治療ターゲット分子 / 生物学的診断・治療法 |
研究実績の概要 |
膵癌細胞において、生存能・転移能・増殖能・薬物耐性・抗低酸素能などに関して、pXYが関係しているかを細胞生物学的・分子生物学的に検討することを目的とした。 pXYは、マウスの各臓器にてユビキタスに発現しており、特に脳・心・肝・腎組織においてより多くの蛋白質発現が認められた。しかしながら、膵組織においては、pXY蛋白質の発現は検出できなかった。pXY遺伝子は、ほぼ総ての臓器にて発現していたが、正常膵組織では殆ど発現が認められなかった。これらより、正常マウス膵組織においては、pXYの遺伝子および蛋白質の発現は認められないことが確認された。 同時に、種々のヒト癌細胞株を用いて、癌細胞におけるpXY蛋白質発現を確認した。肝細胞癌細胞株(Huh-7、HepG2)、大腸癌細胞株(SW480)、扁平上皮癌細胞株(HeLa)、神経芽細胞種細胞株(SK-N-AS)、腎癌細胞株(ACHM)、膵癌細胞株(Panc-1、AsPC-1)を検討したが、膵癌細胞株にて最も強い発現を得た。他の癌細胞では、腎癌細胞株、神経芽細胞種細胞株、肝細胞癌細胞株において、中等度の発現を認めた。 上記の結果から、とくにヒト膵癌細胞株(Panc-1、AsPC-1)に対して、検討を行った。pXY 分子発現量とともに活性化に必要なリン酸化を検証した。既存の抗体を用いてSer351及びSer403に対するリン酸化を検討した。様々な培養条件にてPanc-1細胞株・AsPC-1細胞株のリン酸化の検証を試みたが困難であった。このため、膵癌細胞におけるpXYの活性化にはこれらの部位以外のリン酸化が必要である可能性が示唆された。 pXYを、膵癌に対するバイオマーカーとして使用するために、培養液中、血液中におけるpXY測定条件を検討した。その結果、pXY濃度を測定するための基本的な条件を設定することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
正常膵組織では遺伝子・蛋白質発現が認められないpXY分子を、癌細胞の転移・浸潤能などの悪性度評価、あるいはバイオマーカーとしての応用を考え、その第一歩として研究を開始した。 現在まで、2種類のヒト膵癌細胞株(Panc-1、AsPC-1)に対して、pXY蛋白質の高度発現増加を認めた。他のヒト癌細胞株においては、これほど高い発現は認められなかったため、ある程度膵癌細胞に特異的な発現増加であり、とくに膵癌に対するバイオマーカーとなり得ることが期待された。 pXY分子の活性化機序に関しては、今年度の検討では、リン酸化部位と活性化に関しての検証は困難であったため、今後いくつかの可能性ある部位のリン酸化、蛋白質相互作用を検討する予定である。 将来的に膵癌細胞を含めた腫瘍マーカーとしての応用を視野に入れた研究であるため、細胞・組織のpXYでなく、培養液への細胞からのpXYの漏出の有無、培養液に漏出したpXY測定法及び血中のpXY測定法の基礎的な検討を開始した。培養液への細胞からのpXYの漏出は、細胞増殖期に一致してpXYの培養液中への漏出が確認され、膵癌細胞数の増加の予測に使用可能であることが示唆された(細胞死より受動的に細胞外に放出される可能性はあるが、腫瘍の成長を示す可能性があると考えられた)。また、血液中のpXY測定では、アルブミンなどの物質が測定を阻害することが予想されたため、様々な条件設定を試みた。その結果、ELISA法により、数十ng/mlを限度として、測定することが可能となった。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、膵癌の特性を考え、以下の検討を予定している。 ⅰ)低酸素に対する応答性:細胞傷害性(抗低酸素能)、低酸素状態における代謝、再酸素化後細胞増殖性、酸化ストレス発生などの違いについて、分子生物学的、生化学的に検討し、そのメカニズムを明らかにする ⅱ)細胞増殖能、遊走能:ボイデンチャンバーなどを用いて細胞遊走能を客観的に評価し、また増殖能へ影響も検討する。 ⅲ)抗癌剤に対する耐性:ジェムサールやTS-1などの抗癌剤を用いて、それぞれに対する耐性の違いを検討する。 ⅳ)FasL/Fas経路の重要性の検討:前述のようにpXY、FasL/Fas経路の活性化に関わっており、膵癌でFas経路の重要性も指摘されている。膵癌細胞を用いて、pXY有無あるいはリン酸化状態が膵癌細胞の生存・増殖などに関係するか否かを検討し、その重要性を確認する。 ⅴ)分泌型ルシフェラーゼ(Cypridina あるい Gaussia ルシフェラーゼ)安定発現株を樹立する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
膵癌細胞における、pXYの活性化が腫瘍細胞の悪性度を示すものと考えられ、その機序を検討するために、pXYのリン酸化部位を検討した。しかしながら、今回想定していたSer351及びSer403といった部位でのリン酸化は認められず、その他の部位のリン酸化あるいはそれ以外の機序による活性化が考えられた。そのため、今年度予定していた腫瘍細胞のpXYによる活性化と、その程度による細胞特性機能の変化(生存能・転移能・増殖能・薬物耐性・抗低酸素能などへの影響)の検討ができなかった。
|
次年度使用額の使用計画 |
今年度遂行できなかった研究に対して、次年度予算の一部を使用する。 腫瘍細胞のpXYによる活性化に関しては、別の部位のリン酸化に焦点を当てて検討するとともに、他の分子との相互作用の検討を行う。また、pXY下流のシグナルの変化を分子生物学的に検討する。そのためのウエスタンブロット法、免疫沈降法などために予算を使用する。 また、pXY活性化および下流シグナルへの影響を踏まえた上で、細胞特性機能の変化を検討する。最初は、細胞実験にて確認できる生存能・増殖能・抗低酸素能との関連を検討する。そのために、細胞培養用ディスポーザブル器具、培養液などを購入する。
|