本研究では膵癌と膵神経内分泌腫瘍(以下PNET)のがん幹細胞性の分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 ユビキチン非依存のプロテアソーム標的部位と蛍光蛋白(ZsGreen)の融合遺伝子をヒト膵癌細胞株、PNET細胞株に導入し、セルソーターによりZsGreen陽性細胞(以下CSChigh)を抽出した。CSChigh とCSClow細胞で両細胞群で発現とメチル化を網羅的に調べた。 またPNETで遺伝子変異の頻度が高く、変異群で予後が悪いことが報告されているエピゲノム構成因子X(Gastroenterology 2014)について、幹細胞性との関連性を調べた。 PNET細胞株を用いてsiRNA導入による遺伝子Xのノックダウン(X-KD)、CRSPR/Cas9システムによるノックアウト(X-KO)を行った。臨床病理学的にはX低発現症例は有意に非機能性腫瘍に多く、Ki67指数が高く、WHO病期が進んでいた。X低発現症例の一部に遺伝子変異が認められた。X-KD/KOのマイクロアレー解析とX、ヒストンH3.3、H3K9me3複合体のクロマチン免疫沈降(ChIP)により、Xによって直接転写抑制される標的遺伝子群を同定した。中でも遺伝子Yを含む複数遺伝子はX/H3.3/H3K9me3経路によって抑制されていた。X-KD/KOによりスフェア造成能が増加し、Y-KDにより抑制された。動物皮下腫瘍モデルでは、腫瘍造成能がX-KO腫瘍で増加し、Yも高発現していた。臨床的には、X低発現かつY高発現症例で再発率が高かった。 以上よりXはPNETにおいて腫瘍抑制的に機能し、X/H3.3複合体はH3K9me3を亢進させることで標的遺伝子の発現を抑制していた。Xの低発現と標的遺伝子Yの高発現の組み合わせはPNETの有用なバイオマーカーとなり、治療の標的になりうるかもしれないことがわかった。
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