研究課題
本研究は,肝臓迷走神経の活動が非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の進展を抑制するという仮説に基づき,マウスに対してNASHを誘発する動物実験モデルを用いて検証を行った.今回,特に迷走神経による炎症制御の観点から,肝臓クッパー細胞におけるニコチン性アセチルコリン受容体α7(α7nAchR)を介した抗炎症作用に着目した.野生型マウス(C57BL/6)に対して,迷走神経肝枝を外科的に切離したうえで,メチオニン・コリン欠損食(MCD食)の給餌によりNASHを誘発した.肝臓迷走神経を切離したマウスは,疑似手術を行った対象に比較して,肝臓の組織学的評価において優位にNASHが増悪した.前者では,免疫染色にてクッパー細胞の活性化亢進が認められ,さらに肝臓でのTNFαに代表されるNASH病態に関連する炎症性サイトカインの発現が有意に上昇した.これらの結果は,肝臓迷走神経切離により,クッパー細胞に対する炎症制御が阻害された影響と考えられた.次に,in vitroの検証として,マウス肝臓からクッパー細胞を分離し,その初代培養細胞を用いて実験を行った.クッパー細胞に対して,lipopolysaccharideおよびpalmitic acidの刺激によりNASHにおける炎症誘発を再現し,α7nAchRアゴニストを投与すると,TNFαやMCP-1等の炎症性サイトカインの発現が有意に抑制された。ここまでの研究から,肝臓迷走神経がクッパー細胞に対してα7nAchRを介した抗炎症シグナルとして働きかけることにより,NASHの進展を抑制するメカニズムの存在が示唆された.
2: おおむね順調に進展している
本研究開始時の計画通り,in vivo,in vitroの実験にて,NASHにおける肝臓迷走神経の抗炎症作用について仮説を裏付ける結果が得られた.これまでNASHの病態における肝臓迷走神経遮断の影響について詳細な研究報告はなく,特にクッパー細胞におけるα7nAchRを介した特異的な抗炎症作用のメカニズムは新たな知見である.
クッパー細胞に対するα7nAchR刺激を介した炎症制御メカニズムを,より特異的に検証することを目的に,クッパー細胞におけるα7nAchRシグナル経路を選択的に遮断する手法として,α7nAchRキメラマウスの作成を計画する.具体的に,野生型マウスに対して,liposomal clodoronateの投与にて,肝臓クッパー細胞の除去を行う.その24時間後に10Gyのγ線全身照射を行い,ドナーとしてα7nAchR欠損マウスから採取した骨髄細胞の移植を行う.8週間後には,レシピエントのクッパー細胞がドナー由来の細胞に置換されたキメラマウス(α7受容体欠損→野生型)が完成する.クッパー細胞はα7受容体を欠損し,それを介した迷走神経伝達経路は選択的に遮断される.対象にはドナーに野生型マウスを用いる(野生型→野生型).両群のマウスに対してMCD食によるNASHを誘発し,組織学的評価,遺伝子発現,タンパク修飾においてNASH進展に対する影響を比較検証する.以上,当初の研究計画概要に変更はない.
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