研究課題
心筋幹細胞は、不全心に対する細胞移植治療において極めて有用な細胞種の一つである。しかし、加齢や背景疾患の影響により組織内在性の体性幹細胞の機能が低下してしまう可能性が示唆されており、心不全患者の大半を占める高齢者に対する自己心筋幹細胞移植治療の効果に疑問が残る。そこで本研究では、当院および関連病院において開胸手術を施行する患者から心筋幹細胞を採取し、年齢および背景疾患と心筋幹細胞の機能との関連性について検討する。また、細胞老化関連因子を同定し、老化心筋幹細胞の若返り法を開発することを本研究の目的の一つとする。平成27年度は、2歳児から83歳までの計26人の患者から心筋幹細胞をそれぞれ単離した。患者由来ヒト心筋幹細胞において、細胞老化に関連する遺伝子群の発現解析を行ったところ、患者年齢と各遺伝子群との間で有意な差は認められなかった。次に、ヒト心筋幹細胞の増殖能、細胞老化率、DNA損傷率、血管形成能、などについて比較検討したところ、驚くべきことに、これまでの報告とは異なり年齢と心筋幹細胞の基礎的な性質との間に有意な差は認められなかった。すなわち、心筋幹細胞の機能低下は、加齢に直接影響を受けるものではないことを示唆している。得られた成果については、関連学術誌への投稿および関連学会での発表により積極的な情報発信を行った。平成28年度には、さらに詳細な検討を進め、心筋幹細胞を用いた心不全治療の新たな可能性を提示したい。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、山口大学医学部附属病院および関連病院において小児から高齢者まで26名の心臓組織を採取し、さらにそれらの組織から心筋幹細胞を樹立することができた。ゆえに研究は順調に進展していると言える。細胞老化に関連する遺伝子の同定には至らなかったが、一方で、心筋幹細胞の基礎機能に加齢が与える影響は小さいという重要な発見がなされたことは評価に値する。
最終年度である平成28年度には、樹立した26株の心筋幹細胞を用いて、加齢による幹細胞機能への影響についてさらに詳細に検証する。また、平成27年度には同定できなかった細胞老化誘導因子の同定についても引き続き検討する。具体的には、樹立した細胞株にストレスを与えることで人為的に細胞老化を誘導し、細胞老化関連因子群の発現解析を行う。
平成27年度に行う予定であった網羅的発現解析を行わずに、標的とする遺伝子を絞った発現解析法に変更したため次年度使用額が発生した。
平成27年度に予定していた網羅的解析を平成28年度に実施する。
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Scientific Reports
巻: 6 ページ: 22781
10.1038/srep22781