研究課題
本研究の目的は心筋再生に適切な組織環境、即ち「再生ニッチ」を分子・細胞レベルで解明することである。昨年度に続いて、本年度は健常マウスに心筋梗塞を作製し、1,3,7,14日目に梗塞の中心領域、遠隔健常心筋領域、及び両社の間の境界領域から、それぞれ組織を採集した。採取した各領域の組織からRNAを抽出し、Pathway-focused PCR array解析により炎症性サイトカイン、細胞外マトリックスおよび接着分子の発現を網羅的に調べた。その結果、心筋の再生に盛んな境界領域の組織には、Inleukin-1betaなど多数の炎症性サイトカインの上昇が検出した。一方、心筋再生の乏しい梗塞中心領域には、Collagen 3などの多くの細胞外基質分子が上昇していた。また、過去の研究で報告されている心筋再生関連因子(Inleukin-1betaなど)をいくつか選定し、RT-PCRやWestern Blotによる定量評価を行った。その結果、境界領域の組織中にはInleukin-1betaが有意に上昇していたことを明らかにした。さらに、Inleukin-1betaが心筋細胞や心筋幹細胞の生存と増殖に与える影響をin vitro実験で調べた。その結果、Inleukin-1betaは心筋細胞の生存および心筋幹細胞の増殖に対する促進効果を確認した。上記の結果から、Inleukin-1betaなどの炎症性サイトカインや細胞外基質分子は心筋再生ニッチの構成分子であることを示唆した。今後は、組織学的解析を含め、さらなる心筋再生ニッチの全容解明を進んでいく予定である。
2: おおむね順調に進展している
心筋梗塞後に梗塞中心領域、境界領域、及び遠隔健常心筋領域における炎症性サイトカインや細胞外基質分子の経時的変化を明らかにした上、個々の代表的な因子が心筋幹細胞などに与える影響などのin vitro実験も行った。心筋再生ニッチの関わる因子の同定に貢献する研究結果を得られたと考えている。
前年度に続き、さらに代表的なる炎症性サイトカインや細胞外基質分子を新たに選んで、心筋細胞や心筋幹細胞の生存、増殖、分化・脱分化に与える影響を調べ、心筋再生ニッチの全容解明に進めていく予定です。
同研究テーマに関して、別途に財団法人や研究所内部から研究費の補助が得られており、それらの資金を実験の消耗品の購入に充てていた。
本年度は、他のところから研究費の支給がなく、心筋細胞や心筋幹細胞の培養に高額の消耗品費が必要である。また、次年度は本研究の最終年度であるため、成果発表のための出版費や学会出張経費が多く掛かる見込みである。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 2件、 査読あり 2件、 オープンアクセス 2件、 謝辞記載あり 1件)
PLoS One.
巻: 11 ページ: e0165255
doi: 10.1371/journal.pone.0165255.
Sci Rep.
巻: 6 ページ: 26540
doi: 10.1038/srep26540.