研究課題/領域番号 |
15K15513
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研究機関 | 国立研究開発法人国立循環器病研究センター |
研究代表者 |
古越 真耶 国立研究開発法人国立循環器病研究センター, 研究所, 非常勤研究員 (20739247)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 成長性 / バイオチューブ / 小児心血管外科 |
研究実績の概要 |
本研究は、我々の研究グループが提唱する「生体内組織形成術」を用いて開発した自己組織からなる人工血管バイオチューブが成長期の生体に移植された場合、その体内で自己の血管と共に成長性を発揮するかを調査することが目的である。一方で小児心血管外科領域において、何らかの心奇形を持って生まれる新生児は1%と言われており、その中でも外科手術が必要な症例に対して、成人に使用する移植体ではサイズミスマッチが起こるため、移植時期の検討に慎重を要したり、繰り返しの手術が必要となることがある。バイオチューブの成長性が証明されれば、小児心血管外科領域に大きく貢献できる。 本研究では、まず初年度に鋳型の設計を工夫してこれまでのバイオチューブとは異なり、チューブの壁厚を所望の厚みに設定でき、より丈夫さをもった新型の「Type C バイオチューブ」を開発した。本研究のバイオチューブの成長性の評価にはビーグル犬をモデル動物としているが、人と比較してビーグル犬も成長期は約1年の間に完了してしまう。バイオチューブは本来、自己組織で作成するが、作製期間に1~2ヶ月の期間を有するため、この間にも若齢ビーグル犬の成長が進んでしまうことを考慮し、あらかじめ成犬ビーグル犬でType C バイオチューブを作成し、同種バイオチューブを若齢ビーグル犬の頚動脈に移植を行うこととした。移植後1ヶ月時点で組織学的評価を行ったところ、同種移植されたバイオチューブは特に弊害なく生体血管に定着し、血管様構造への再構築が認められた。移植後は3ヶ月毎に1年間血管造影にてバイオチューブの形状およびサイズの変化を観察および記録し、生体血管と比較することでバイオチューブの成長性を評価している。また、1年時の組織学的変化についても調査を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度は、前年度に開発したバイオチューブを実際に若齢ビーグル犬に移植し、その後の形状およびバイオチューブの口径変化を経時的に血管造影にて観察した。移植後3ヶ月までには生体血管において急速な成長が認められたが、バイオチューブについては口径変化がほとんど認められなかった。しかし、その後は生体血管の成長に追従するようにバイオチューブの口径の拡大が認められ、個体差があるものの移植1年時には生体血管とバイオチューブの口径がほぼ同程度となるケースが多く認められた。また、移植した全例において観察期間中狭窄、瘤化および膨化などの有害事象を認めることなく良好に開存性の維持が可能であった。また、移植1年時には実際に肉眼的観察を行っているが、移植したバイオチューブにおいて縦方向への伸長が認められ、口径ばかりでなく長さについても移植後に体内でサイズ拡大が可能であることが証明された。組織学的評価を行ったところ、移植前はほぼコラーゲン線維で形成されていたバイオチューブが移植1年時にはバイオチューブの内腔は全長において内皮細胞で覆われ、また、エラスチン層が認められるなど、血管様構造への再構築が認められた。 現在までのところで移植後1年を超えて観察を続けているが、全例について開存性を維持していること、生体血管の成長を妨げることなく形状を維持できるということが確認できている。現在は移植後2年を超えて観察を継続している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は本研究課題の最終年度であり、これまで記録したデータを評価し結果をまとめていく。現在観察を継続している全例について、移植2年またはそれ以上の期間観察した時点で観察期間終了とし、移植したバイオチューブを摘出する。摘出したバイオチューブについては、その組織構造を免疫学的染色を含む各種染色法による組織標本を作成し、移植前後の組織学的変化を観察する。特に、成長期の個体については移植片の石灰化が問題視されることが多いとされるため、バイオチューブの石灰化の有無についても組織学的に評価を行うこととする。また、バイオチューブの成長性の評価として、各時点での血管造影画像から計測した口径および移植1年時および観察終了の2年時に計測する長さを計測したものを記録し、グラフ化するとともに移植前後での拡大率について数値化し表すこととする。 移植した各ケースについて、バイオチューブのサイズの変化および組織学的評価を行い、バイオチューブが成長期の個体に移植された際に生体の成長に影響することなく、移植部の一部として機能することが可能かを評価する。一方で、移植後にややサイズの変化に乏しいケースが数例確認された。これらについて、移植後6ヶ月時にバルーン拡張を行い、生体血管とほぼ同程度に拡張させると拡張させたサイズを維持することが可能であり、更に拡張させた口径から数ヶ月後に更に拡張していることが確認できた。この結果によって、移植後に比較的低侵襲なバルーン拡張術を実施することで更にサイズを変化させることが可能であることがわかったため、このことについても評価を行っていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
移植時に使用する縫合糸の使用状況が予定した量より少なかったため。また、本年度に購入する予定であった薬品および移植・血管造影時に使用する縫合糸を含めた消耗品および手術道具の購入が予定金額より少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
本年度は血管造影時に使用する薬品および縫合糸、造影時に必要な消耗品および手術道具の購入を予定している。また、血管造影で得られた画像の保存および解析時に必要なデータ保存用のメディアの購入が必要となる。さらに、観察終了後の採取した組織評価時に必要な薬品、試薬の購入を予定している。また、本研究課題から得られた結果を学会発表を行うため、学会旅費としての使用が必要となる。
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