研究課題/領域番号 |
15K15516
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
陳 豊史 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00452334)
|
研究分担者 |
伊達 洋至 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60252962)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 血液型不適合 / 肺移植 / 生体肺移植 / クロスマッチ陽性 / HLA抗体 / 血液型抗原 / 抗体関連型拒絶 |
研究実績の概要 |
脳死ドナー不足のために、本邦では生体肺移植の占める役割が大きいが、血液型不適合やクロスマッチ陽性のために実現できない場合が多い。従って、腎臓や肝臓移植にならい、血液型不適合やクロスマッチ陽性肺移植の実現は、世界に先駆けて本邦での喫緊の課題である。また、肺移植後の抗体関連型拒絶(AMR)が世界的に注目され始めたが、治療法を含め確立したガイドラインはない。そこで、本研究は、血液型不適合やクロスマッチ陽性肺移植の世界初の実現とAMRのさらなる理解を目指し、肺移植前後のHLA抗体の推移や、肺における血液型抗原と抗体反応、肺のAMRにつき、多角的に検討することを目的とする。本研究は、肺移植における「抗体」の意義を確認するとともに、「抗体」という観点から生体移植と脳死移植の違いを解き明かす鍵となる。 まず、肺移植におけるHLA抗体、とくにDSA産生およびAMRという状況を、生体肺移植および脳死肺移植患者において、同一施設、同一基準で診断、治療し、経過を観察し、網羅的に解析していくという研究をおこなった。術前および術後3-6カ月毎、又は必要時に、HLA抗体のスクリーニングと各種バイオマーカーの測定を行った症例は、2016年3月末までで102例となった。そのうち、12例がDSA陽性となった。内訳は、生体肺移植3例(6%)、脳死肺移植9例(18%)であり、脳死肺移植が有意に多かった。 続いて、造血幹細胞移植後の肺移植患者の摘出肺を用いて、ABO抗原の発現を免疫組織化学的に確認した。また、ABO不適合造血幹細胞移植において、正常肺と障害肺でABO抗原を用いたキメリズムの度合いを確認した。本結果を用いて、障害肺に対する肺修復・再生を含めた検討を行う方向とした。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従い、京都大学で2016年3月末までに行われた、肺移植136例(生体69例、脳死67例)について、術前後にHLA抗体を定期的に、また必要時に測定した。実際には、LABScreen Mixed Class I and IIを用いてHLA抗体のスクリーニングを行い、陽性であった場合に、LABScreen Single Antigen Class IIを用いて、DSAの同定を行った。さらに、種々のバイオマーカーの測定のために、血液の保存を並行して行った。さらに、臨床的に抗体関連型拒絶(AMR)が疑われる症例については、プロトコールに従って、種々の治療を行い、その反応性を観察した。現時点での検討では、術前後のHLA抗体のデータが揃っている症例は102例(生体53例、脳死49例)であった。術後に、新しくDSAが出現した(de novo DSA)症例を12例(9%)に認め、生体3例(6%)、脳死9例(18%)であり、脳死肺移植に有意に多かった(p=0.04)。また、生体肺移植では、術後遠隔期に、初めてde novo DSAが検出されることが多いのに対し、脳死肺移植では、術後早期に検出され消失することが多かった。また、生体肺移植では、全例でclass II抗体が検出されていたが、脳死肺移植では、class Iが多い傾向にあった。これまでの解析結果から、de novo DSAの頻度、出現時期、そのタイプについて、生体肺移植と脳死肺移植に違いがあることが判明した しかしながら、バイオマーカーについては、まだ、すべての因子については、検討できていないため、今後、研究継続を行う予定である。また、二つ目の検討課題である、血液型不適合移植を想定した基礎実験については、標本の検討が終わったため、現在論文執筆中でるが、実際に、今後、さらなる検討をどのように進めていくのかが課題として残っている。
|
今後の研究の推進方策 |
他の固形臓器移植とは異なり、肺移植において、術後DSAやAMRの発生については、正確な臨床的意義を含め、未だその実態がつかめていないのが実情である。こういった現状の中、本研究によって、肺移植後のde novo DSAの頻度、出現時期、検出期間、そのタイプについて、本邦の患者を用いたデータが、初めて収集された。 肺移植は、これまでに世界で約5万例が行われてきたが、そのうち生体肺移植は約1%以下の500例程度にすぎず、現在、生体肺移植は、主に日本で行われており、京都大学では月一例のペースで着実に行われており、世界最多である。さらに、生体肺移植と脳死肺移植のデータを同時に集積し、同一の基準にて評価を行うため、得られたデータの信頼性は非常に高く、種々の採血検体から新たなバイオマーカーを発見できる可能性がある。また、国際的にも行われていない、血液型不適合やDSA陽性症例に対する肺移植の臨床医療実現のための足がかりとなる研究ともなり得る。 今後、脳死肺移植と生体肺移植が一定数、同一施設で集積できるという京都大学独自の利点を生かし、ドナーが術後も健在である生体肺移植の特徴を用いて、術後のDSA産生時やAMRを疑う時期に、ダイレクトクロスマッチとC4d染色を併用して検討を行う予定である。これによって、AMRの診断の精度を上げるとともに、肺移植におけるC4dの有用性を世界で初めて最も客観的に証明するという成果を得ることが出来る可能性がある。同時に、採血検体から種々のバイオマーカーを測定し、それらのDSA産生やAMR発症および治療における推移を検討する予定である。 本研究によって得られた知見は、世界的にも一般的に行われていない、DSA陽性の肺移植や血液型不適合肺移植の実施において、活用される可能性が高いため、着実の症例の蓄積を行い、結果を発信していく方針である。
|