研究実績の概要 |
胸腔鏡下肺葉切除術の対象となる患者は主に喫煙者であり高頻度に気腫肺を合併するため、分離肺換気時に患側肺の虚脱が悪く視野の確保に時間がかかることも多い。Helioxは酸素を30%含有する吸入用のヘリウムガスであり、潜水時の吸入ガスとして用いられる。ヘリウムは分子量が小さい故に窒素に比べて粘度が低く、狭小な末梢気道でも容易に流速を維持でき、閉塞性障害の改善をもたらすことが知られている。我々は。このHelioxを胸腔鏡下肺葉切除術の術側肺の換気に利用すれば、術側肺の虚脱を促進し視野の改善を得ることができると考え、動物実験で有効性確認後に臨床試験を開始した。 胸腔鏡下肺葉切除術 (VATS)を行う肺癌患者を対象とし、無作為比較第II相臨床試験として2017年1月より登録を開始した。期間内の登録例は33例で、うち18例がHeliox吸入(H群)に,15例が通常の麻酔群(C群)に割当てられた。H群では分離肺換気開始後から胸腔内操作開始までの間、術惻肺をHELIOXで換気した後に虚脱させた。虚脱および視野確保の程度はblind化した術中画像にて評価した。視野の確保 (View Field Grade:以下VG)および肺の虚脱度(Atelectasis Grade:以下AG)をそれぞれ0 (最も悪い)から4 (最も良好)までの5段階にて評価した。手術時間、出血量。術後在院日数、ドレーン留置期間、臨床的データについても比較した。 患者背景では年齢、性別、術式(完全鏡視下VATS、小開胸VATS)、病変占拠部位、術前呼吸機能はH群、C群で差はなかった。 VG, AG, 手術時間、出血量、術後在院日数、ドレーン留置期間、ドレーン総廃液量、術中Spo2最低値、術後SpO2最低値、術後白血球最高値、術後CRP最高値について検討したが、いずれもH群、C群で有意な差は見られなかった。
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